無限小回転から任意の回転へ

無限小回転と任意の回転の関係について見ていきます.

ベクトルの無限小回転

ベクトル$\bm{\omega}$を回転軸とする回転を考える.

ベクトル$\bm{\omega}$の大きさは,時間$\Delta t$の間に回転軸の周りを$|\bm{\omega}| \Delta t$ radの角度だけ回転するように定め,$\bm{\omega}$の方向は回転に対し右ねじの進む方向とする.

このとき,ベクトル$\bm{r}(t)$は,微小時間$\Delta t$の後には

\begin{aligned}
\bm{r}(t+\Delta t) - \bm{r}(t)
= (\bm{\omega}\Delta t) \times \bm{r}(t)
\end{aligned}
だけ回転する.これは,変化の方向は$\bm{\omega} \times \bm{r}(t)$であり,変化量は$|\bm{r}(t)| \sin\theta \cdot |\bm{\omega}\Delta t| $であることからわかる($\theta$は$\bm{\omega}$と$\bm{r}(t)$のなす角).
無限小回転
無限小回転

任意の回転

上で得られた式から,任意の時間における回転(したがって,任意の角度の回転)は
\begin{aligned}
\dot{\bm{r}}(t)
&= \lim_{t\to 0} \frac{\bm{r}(t+\Delta t) - \bm{r}(t)}{\Delta t} \\
&= \bm{\omega} \times \bm{r}(t)
\end{aligned}
を解けば得られる.

ここで,右辺の変換

\begin{aligned}
\bm{x} \mapsto \bm{\omega} \times \bm{x}
\end{aligned}
は線形変換であるから,行列$A$で
\begin{aligned}
A \bm{x}
= \bm{\omega} \times \bm{x}
\end{aligned}
を満たすものが存在する(具体的な表式は後で求める).

この行列$A$を使って微分方程式を書き直すと

\begin{aligned}
\dot{\bm{r}}(t)
&= A \bm{r}(t)
\end{aligned}
となり,その解は
\begin{aligned}
\bm{r}(t)
&= \exp (tA) \bm{r}(0)
\end{aligned}
である.したがって,$\exp (tA)$は,$\bm{\omega}$を回転軸とする,角度$t\| \bm{\omega} \|$の回転行列を表す.

外積の行列表現

それでは,具体的に行列$A$で
\begin{aligned}
A\bm{x} = \bm{\omega} \times \bm{x}
\end{aligned}
を満たすものを求める.これは,行列$A$の要素を$\bm{\omega} = (\omega_{1}, \omega_{2}, \omega_{3})$で表すということである.

行列$A$は,

\begin{aligned}
A
&= (A\bm{e}_{1}, A\bm{e}_{2}, A\bm{e}_{3}) \\
&= (\bm{\omega}\times\bm{e}_{1}, \bm{\omega}\times\bm{e}_{2}, \bm{\omega}\times\bm{e}_{3})
\end{aligned}
と求めることができる(➡回転行列(2次元) - Notes_JP).$\bm{\omega} = \omega_{1}\bm{e}_{1} + \omega_{2}\bm{e}_{2} + \omega_{3}\bm{e}_{3}$として各列を計算すれば(*1
\begin{aligned}
A
&=
\begin{pmatrix}
0 &-\omega_{3} & \omega_{2} \\
\omega_{3} &0 & -\omega_{1} \\
-\omega_{2} &\omega_{1} &0
\end{pmatrix} \\
& =
\omega_{1} L_{1}
+\omega_{2} L_{2}
+\omega_{3} L_{3}
\end{aligned}
であることがわかる.ただし,$L_{1} = \begin{pmatrix} 0 &0 & 0 \\ 0 &0 & -1 \\ 0 &1 & 0 \end{pmatrix}$,$L_{2} = \begin{pmatrix} 0 &0 & 1 \\ 0 &0 & 0 \\ -1 &0 &0 \end{pmatrix}$,$L_{3} = \begin{pmatrix} 0 &-1 & 0 \\ 1 &0& 0 \\ 0 &0&0 \end{pmatrix} $とおいた.

ここで,${}^{t}\!A = - A$であるから,$A$は交代行列である.逆に,任意の3次の交代行列$A$を上のように基底$L_{1}, L_{2}, L_{3}$で分解すれば,$A\bm{x} = \bm{\omega}\times x$を満たす$\bm{\omega}$が得られる.

回転行列と交代行列の関係

上の結果より,回転行列と交代行列が1対1に対応することがわかった.これを,指数関数の性質を使って示す(3次元という制約がなくなる).

▶行列$A$が交代行列(${}^{t}\!A = - A$)であれば,$R = \exp(tA)$は回転行列となる($R \in \mathrm{SO}(n)$).
[証明]

  • ${}^{t}\!R = \exp(t{}^{t}\!A) = \exp(-tA) = R^{-1}$
  • $\det R = \exp(-t\cdot \mathrm{tr\,}A) = 1$

▶$R = \exp(tA)$が直交行列(${}^{t}\!R = R^{-1}$)であれば,行列$A$は交代行列(${}^{t}\!A = - A$)となる.(上の結果より,$R$は回転行列となる.)
[証明]
${}^{t}\!R R = I$の両辺を$t$で微分すれば,${}^{t}\!A + A = 0$が得られる.

▶任意の回転行列$R$は,交代行列$A$を使って$R = \exp(tA)$と表せる.
[証明]
例えば,リー群入門 (松木 敏彦) 定理1.9.


参考文献

*1:あるいは

\begin{aligned} (\bm{\omega}\times\bm{x})_{i} &= \sum_{j,k} \epsilon_{ijk} \omega_{j}x_{k} \end{aligned}
から計算できる.