- 極限操作(lim,微分,積分)を入れ替えられない例の紹介.
- 一様収束や微分,積分をグラフで理解しておけば簡単に反例をつくることができる.
絵(グラフ)で考えるとわかりやすいです.次のポイントさえ掴んでいれば,反例を考えることは簡単です:
- 微分はグラフの傾き.
- 積分は面積.
- 「一様収束」は,『「収束先の関数から一定距離にある床と天井」が迫ってくる』イメージ.
また,極限操作の順序交換はLebesgue積分論を学ぶとより簡単に扱うことができます.
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limとlimの入れ替え
極限記号が入れ替えられない例
2つの添字を持つ数列a_{m,n}=\frac{m}{m+n}
\end{aligned}
\lim_{m\to\infty} a_{m,n}=1&\qquad(\text{for all $n$})\\
\lim_{n\to\infty} a_{m,n}=0&\qquad(\text{for all $m$})
\end{aligned}
&\lim_{n\to\infty}\left(\lim_{m\to\infty} a_{m,n}\right) \\
&=1
\neq
0=\lim_{m\to\infty}\left(\lim_{n\to\infty} a_{m,n}\right)
\end{aligned}
積分とlimの入れ替え
\lim_{n\to\infty}\int_a^b f_n(x)\,\mathrm{d}x
=\int_a^b f(x)\,\mathrm{d}x
\end{aligned}
- この結果は,Riemann-Stieltjes積分に一般化できます(参考:Rudin).
- $f_n=\displaystyle\sum_{k=1}^n g_k$を考えれば,級数にも適用できます.
以下で,
- 「有界」の仮定は除けない
- 「一様収束」の仮定は除けない
ことを見てみましょう.
非有界区間で一様収束するが,$\displaystyle\lim_{n\to\infty}$と$\displaystyle\int$を入れ替えられない例
以下の2条件を満たす関数列
- 面積は常に有限
- $0$に一様収束する
がすぐに見つかります.
f_n(x)=
\begin{cases}
\,\dfrac{1}{n^2}x&(0\leq x< n)\\
\,-\dfrac{1}{n^2}x+\dfrac{2}{n}&(n\leq x< 2n)\\
\,0&(\text{otherwise})
\end{cases}
\end{aligned}
任意の$x$に対して$\left| f_n(x)\right|\leq 1/n$なので,関数列$\{f_n\}_n$は$0$に一様収束します.さらに,任意の$n$に対して
\int_{-\infty}^{\infty} f_n(x)\,\mathrm{d}x=1
\end{aligned}
&\lim_{n\to\infty}\int_{-\infty}^{\infty} f_n(x)\,\mathrm{d}x \\
&=1
\neq
0=\int_{-\infty}^{\infty} \lim_{n\to\infty} f_n(x) \,\mathrm{d}x
\end{aligned}
有界区間で各点収束するが,$\displaystyle\lim_{n\to\infty}$と$\displaystyle\int$を入れ替えられない例
今度は,一様収束しなくて良いことがポイントです.上の例で$y$方向を潰した代わりに,$x$軸方向に潰して面積を$0$にすれば良いわけです.
f_n(x)=
\begin{cases}
\,n^2x&(0\leq x < 1/n)\\
\,-n^2x+2n&(1/n\leq x < 2/n)\\
\,0&(2/n\leq x\leq 2)
\end{cases}
\end{aligned}
&\lim_{n\to\infty}\int_{0}^{2} f_n(x)\,\mathrm{d}x \\
&=1
\neq
0=\int_{0}^{2} \lim_{n\to\infty} f_n(x) \,\mathrm{d}x
\end{aligned}
微分とlimの入れ替え
2条件
- ある$1$点$x_0\in[a,b]$で,$\displaystyle\lim_{n\to\infty} f^\prime_n(x_0)=f(x_0)$
- $\{f^\prime_n\}$が,$[a,b]$上$f^\prime$に一様収束する
を満たすとき,以下が成立する:
- $\{f_n\}$は,$[a,b]$上$f$に一様収束する
- $\displaystyle\lim_{n\to\infty} f^\prime_n(x)=f^\prime(x)\qquad(x\in[a,b)])$
関数列は一様収束するが,導関数列が一様収束しない場合の反例
2条件
- $0$に一様収束する
- 傾きがどんどん大きくなる
は同時に実現可能であることはすぐにわかります.以下で定められる関数列$\{f_n\}$を考えましょう.この関数列は,$n$が大きくなるにつれて周期が小さくなり,傾きの最大値がどんどん大きくなっていきます.
f_n(x)=
\frac{1}{n}\sin (n^2x)
\end{aligned}
$\left|f_n\right|\leq 1/n$なので,関数列$\{f_n\}$は$0$に一様収束します.一方で,導関数は
f^\prime_n(0)=
n
\rightarrow\infty
\qquad(n\rightarrow \infty)
\end{aligned}
\lim_{n\to\infty} \frac{\mathrm{d}f_n}{\mathrm{d} x}(0)
=\infty
\neq
0
=\left(\frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d} x}\lim_{n\to\infty} f_n\right)(0)
\end{aligned}
参考文献
もっと例を知りたい場合は,次の2つの文献がオススメです.[1]微分積分学 ((サイエンスライブラリ―数学))
微積分についてコンパクトにまとまっています.適度に絵もあるので,読みやすいと思います.
[2]Principles of Mathematical Analysis (Int'l Ed)
洋書は,構成や証明がスッキリしているものが多いです(なぜでしょう?).そのため,他の教科書(特に和書)と比較して「え?これだけで証明できたんだ」と気付かされることがあります.また,数学の教科書は英文も難しくなく,たとえわからなくても論理的に推測できます.微積分の教科書としては[2]がオススメです.但し,絵はありません.理解を深めるためにも自分で描いてみましょう.