- 標準偏差の役立つ実用例を紹介.
- 偏差値・ボリンジャーバンド・測定
- Excelによるボリンジャーバンドの描画法.
確率・統計で学ぶ「標準偏差」の定義を知っている人は多いと思います.また,「標準偏差」が分布のバラツキを表していることも良く知られています:
チェビシェフの不等式とその応用 - Notes_JP
それでは,「標準偏差」の応用例をすぐに思いつくでしょうか.実は,標準偏差は様々な場面で活用されています.この記事では,標準偏差の活用例を紹介します.
偏差値
手始めは,有名な「偏差値」から.試験で使われる標準偏差です.「役に立つ」というよりは「豆知識」ですね.【定義】偏差値の計算法
$n$人の試験において,それぞれの点数が$\left\{a_1,a_2,...,a_n\right\}$だったとしましょう.確率変数$X$を$X:i\mapsto a_i$で定義します.
このとき,偏差値は以下の確率変数で定義されます:
\frac{10(X-\mu)}{\sigma}+50
\end{aligned}
ここで,$\mu$, $\sigma$はそれぞれ分布の平均値, 標準偏差です:
\mu&=EX=\frac{1}{n}\sum_{i=1}^n a_i\\
\sigma&=\sqrt{E\left(X-EX\right)^2}
\end{aligned}
偏差値の性質
上の「定義」から,以下のことがわかります:- 偏差値の平均値は50, 標準偏差は10
- 標準偏差が小さい場合は(大きい場合に比べて),平均点から離れた点を取ると偏差値が「大きく/小さく」なりやすい.
- 「標準偏差が小さい」ということは,平均点付近に固まった分布になっているということです.
- 100点満点の試験の場合,偏差値は\begin{aligned}50-\dfrac{10\mu}{\sigma}\quad\text{から}\quad50+\dfrac{10(100-\mu)}{\sigma}\end{aligned}までの値を取り得る.
ボリンジャーバンド
次は,投資で使われる標準偏差です.「お金」が絡む,実践的な例ですね.証券会社などで提供されるチャートには,大概「ボリンジャーバンド」を表示する機能がついていると思います.チャートを見ると「ボリンジャーバンド」に沿って株価が変動したり,反転したりすることも多いのに気づきます.多くの人/プログラムがボリンジャーバンドを指標として使っているからなのでしょうか?
【定義】ボリンジャーバンド
まずは,チャートの「移動平均線」や「ボリンジャーバンド」を描く方法 (定義) を紹介します.ボリンジャーバンドで出てくる$\sigma$とは,下の「$n$日移動標準偏差」を表しているのです.以下では,$N$日間の「株価(など)」の時系列データ$\{p_i\}_{i=1}^N$を考えます.このとき,
- 「$n$日移動平均」の$k$日目における値:$\displaystyle \mu_k=\frac{1}{n}\sum_{i=k-n+1}^{k}p_i$
- 「$n$日移動標準偏差」の$k$日目における値:$\displaystyle \sigma_k=\sqrt{\frac{1}{n}\sum_{i=k-n+1}^{k}\left(p_i-\mu_k\right)^2}$
- ボリンジャーバンド$\pm a\sigma$の$k$日目における値:$\mu_k\pm a\cdot\sigma_k$
が定義されます.
これらは,過去$n$日間のデータを使って計算しています.従って,計算できるのは$n$日目から ($k\geq n$を満たす$k$) になります.実際,証券会社等のチャートでも,移動平均線やボリンジャーバンドは途中から描かれていますね.
では,これらの定義を用いて,実際に株価チャートを描画してみましょう.
Excelでボリンジャーバンドを描く
Excelを使えば,ボリンジャーバンドを簡単に描画することができます.例として,ビックカメラの2017年の株価チャートを描画してみましょう.具体的な手順は以下です:
- Excelの標準機能を使って,株価のローソク足を描画.
- 「第2軸」に25日移動平均線,ボリンジャーバンド ($\pm \sigma,\pm 2\sigma,\pm 3\sigma$)を追加.
- 移動平均値はAVERAGE関数,移動標準偏差はSTDEVP関数で求められる.
この手順に従って,ビックカメラ (2017年) の株価チャートを描画しました.チャートから,以下のことがわかります:
- 移動平均線,ボリンジャーバンドは25日目から描画されている.
- 株価の殆どが$\pm 3\sigma$の間に収まっている.
- ボリンジャーバンドに株価がタッチした後バンドを超えない場合,反転(上昇→下落/下落→上昇)することが多い.
- 12月には,$+3\sigma$に沿って株価が推移している.
- $+3\sigma$から外れたあとは下落している.
測定における標準偏差
標準偏差の推定
「測定」という行為は,ある確率分布からの無作為抽出とみなすことができます.実験では,測定を何度も繰り返すことで,分布の「平均値」や「標準偏差」の推定を行います.詳しくは,以下の記事を参照して下さい:
測定ミスの発見
同一の(あるいは余り違いがないはずの)測定を行っているにも関わらず,ある測定に対してだけ標準偏差が極端に大きく出てしまう場合があります.可能性としては
- 測定ミスや,測定値の記録ミスをした
- たまたま,低い確率で起きる事象を観測した
が考えられます.
いずれの場合も,測定をやり直す/繰り返すなどの対応が必要です.
こうした,「外れ値」の扱いについて知りたい場合は,例えば以下の文献の5章を参考にして下さい: