- 東大教養学部のゼミ「群論と微分方程式」の講義録.
- 各章が短くて進めやすい(第9週は2ページ!)
東大教養学部のゼミ「群論と微分方程式」の講義録だそうです.出席した学生の中から,数学者になった方もいるそうです.
以前,モチベが上がる書籍として(何かの書籍で)紹介されており,購入(履歴を見返すと2017.10...)したのですが,途中まで読んで放置していました.メモを残しながら,もう一度,最初から読んでみようと思います.
英訳もされているようです.
本書を読む際の注意(個人的メモ)
本書は,基本的に$\mathbb{R}^{2}$を扱っている.第4週,5週で「領域」の説明があるが,つまりは「$\mathbb{R}^{2}$の開集合で連結であるもの」を指している.$\mathbb{R}^{n}$の開集合$U$に対し,「$U$が連結$\Leftrightarrow U$が弧状連結」である.よって,本書で考える領域は弧状連結である.
手元にある書籍で「被覆空間」を扱っているものには以下がある.
- [1] 群と位相 (横田 一郎):4. 射影空間と古典群の基本群と被覆空間
序文
代数方程式論においてGalois群の理論が成功したことは,微分方程式論においても同様な群論的考察が可能であり,有力な武器になるのではないか,という期待をいだかせる.実際Sophus Lieはこの問題に一生をかけ,そのための武器としてLie群の理論をつくった.
出典:久賀道郎「ガロアの夢―群論と微分方程式」, 日本評論社 (1968)
- 「Fuchs(フックス)型の微分方程式においては,解法理論はモノドロミー群$\Gamma$で完全に記述できる」というのが19週までの主な内容.
- Fuchs型の微分方程式を題材とした理由:
- 代数系(群),Topology,解析学(関数論)が3つとも初歩程度の知識が必要になる.
- ガロア理論が視覚化され,理解の助けになる.
数学以前のことなど
第0週:予備知識はいりません
群論,topology,関数論,微分方程式論の初歩について,必要な内容を自習するように書かれています.第1週:集合と写像
集合論の基礎的な部分が,イメージ重視で書かれています.集合は,ドイツ文字$\mathfrak{M},\mathfrak{N}$などで表現されています(TeXでドイツ文字は\mathfrak{}
で出力できます).
本書の定義では,$0$を自然数に含まないようです.
集合の記号で,$\{x\in\mathbb{R} \mid x^{2} < 1\}$の真ん中の棒$\mid$が「such that」の意味だと書いてありました.これを意識したことはなかったです.例として
&\{x\in\mathbb{R} \mid \exists y\in\mathbb{R} \mid \sin y = x\}
= \{x\in\mathbb{R} \mid |x| \leq 1\} \\
&\bigcup_{i} A_{i}
= \{x\in\mathfrak{M} \mid \exists i \mid x \in A_{i}\}
\quad(A_{i}\subset \mathfrak{M})
\end{aligned}
第2週:同値類別について
同値類の説明です.類別の条件,C-(2)を$\alpha\neq\beta$ならば$\mathfrak{N}_{\alpha}\cap\mathfrak{N}_{\beta}=\emptyset$とせず,$\mathfrak{N}_{\alpha}\neq\mathfrak{N}_{\beta}$ならば$\mathfrak{N}_{\alpha}\cap\mathfrak{N}_{\beta}=\emptyset$とした微妙な点を学生は理解したであろうか!?
出典:久賀道郎「ガロアの夢―群論と微分方程式」, 日本評論社 (1968)
第3週:自由群の話
自由群$F$における積を定義する際,いわゆるwell-definedの概念が現れます.つまり,積を類の代表元を使って定義するとき,積が代表元のとり方に依らないことを示しています.逆元についても同様です.
エイヤーッとひっぱってみる
第4週:面の基本群のこと
homotopeの概念を説明しています.連結な領域$D$の2曲線$C_{1}, C_{2}$について,
- $C_{1}$と$C_{2}$の始点・終点が一致しており,
- 始点・終点を固定したまま,$D$内の連続変形で$C_{1}$を$C_{2}$に変形できるとき,
第5週:基本群のこと
連結な領域$D$内の点$O$を始点かつ終点とする,$D$内の閉曲線全体からなる集合を$W(D;O)$と表す.homotopeの同値関係$\sim$による商空間$\pi_{1}(D;O) \coloneqq W(D;O) / \sim$は,類の代表元(閉曲線)の連接(2つの曲線をくっつけた曲線をつくること)で積を定めると群になる.$\pi_{1}(D;O)$を,領域$D$の$O$を基点とする基本群と呼ぶ.
$D$内の2点$O, O^{\prime}$について$\pi_{1}(D;O)\cong \pi_{1}(D;O^{\prime})$であるから,群構造に着目するときには単に$\pi_{1}(D)$と表すこともある.
$\pi_{1}(D)=\{1\}$であるとき,$D$は単連結な領域であるという.
第6週:基本群の例
平面内の領域の基本群の例.(平面から$n$点除いた領域の基本群) $\cong$ ($n$文字から生成された自由群)
特に,$\pi_{1}(\text{全平面} \setminus \{\text{1点$a$}\}) \cong \mathbb{Z}$であり,
W(D;O) \ni \textcolor{red}{C}
\mapsto
n(\textcolor{red}{C})
=\frac{1}{2\pi i} \int_{\textcolor{red}{C}} \frac{\mathrm{d}z}{z-a}
\in \mathbb{Z}
\end{aligned}
第7週:基本群の例(つづき)
空間内の曲面の基本群の例.トーラス$T$に対して,$\pi_{1}(T;O)\cong \mathbb{Z}\times\mathbb{Z}$であり,特に可換群.
奥さんがとり替ってもわからない紳士たち
第8週:被覆 (covering)
$D^{\prime}, D$を平面内の連結領域とする.写像$f:D^{\prime}\to D$が次の2条件を満たすとき,$f$は$D^{\prime}$から$D$への被覆写像 (covering map)であるという.
- $f:D^{\prime}\to D$は$D$の上への連続写像
- 任意の$Q \in D$に対し$f^{-1}(Q)$は高々可算個の点集合$\{P_{i}\}_{i}$であり,(十分小さな)$Q$の連結小近傍$U$と,$P_{i}$の連結小近傍$U_{i}$で次を満たすものが存在する:\begin{aligned} & f^{-1}(U) = \bigcup_{i} U_{i} \quad \bigl(U_{i}\cap U_{j} = \emptyset \,(i\neq j)\bigr) \\ &f|_{U_{i}}: U_{i}\to U \text{ は位相同型 (homeomorphism)} \end{aligned}
このとき,$D^{\prime}$は$f$によって$D$を被覆するといい,$D^{\prime}$を$D$の被覆面という.
(第13週)
$f:D^{\prime}\to D$を被覆,$O^{\prime} \in D^{\prime}$,$O \in D$に対し$f(O^{\prime}) = O$とする.このとき,「$(D^{\prime};O^{\prime}) \overset{f}{\rightarrow} (D;O)$は$(D;O)$の被覆である」と表現する.
※被覆の定義は第10週の冒頭の方が整理されており,わかりやすい.
(第10週の先取り)
任意の$Q \in D$に対し$f^{-1}(Q)$の点の個数は同じであり,その個数$\deg (f)$(または$[D^{\prime}: D]$で表す)を被覆度と呼ぶ($1 \leq \deg (f) \leq \infty$).$\deg (f) < \infty$の場合,$D^{\prime}$は$D$の有限被覆であるという.
例として,恒等写像の定義域を複製する方針で2つの被覆写像を構成している(逆写像を考えて,像を複製していると考えるとわかりやすいかも):
例1:ローラースタンプを無限に広い紙の上で転がすイメージ.紙からスタンプへの写像は被覆写像.
例2:住んでいる世界を複製して2つくっつける.この世界では,見分けがつかない奥さんが2人存在することになる(タイトル回収).この世界で,複製された住人同士が出会うことはあるであろうか?(←つまり,$D$の曲線$C$の$D^{\prime}$での対応物は交わるか?ということ.第10週で「ない」ことが証明される.)
第9週:被覆面と基本群
被覆$f:D^{\prime}\to D$を考える.$O^{\prime} \in D^{\prime}$と$O=f(O^{\prime})$に対し,写像
f_{*}: \pi_{1}(D^{\prime}; O^{\prime}) \ni (A) \mapsto \bigl(f(A)\bigr) \in \pi_{1}(D; O)
\end{aligned}
$f_{*}$は群準同型写像 (group homomorphism)であるから,$f_{*}\bigl(\pi_{1}(D^{\prime}; O^{\prime})\bigr)$は$\pi_{1}(D; O)$の部分群である.
★★★ ここまでは,$f$が連続写像であれば成り立ち,被覆の性質は使っていない ★★★
逆に,$\pi_{1}(D; O)$の部分群$\Gamma$に対して,$\Gamma = f_{*}\bigl(\pi_{1}(D^{\prime}; O^{\prime})\bigr)$を満たす被覆$(D^{\prime};O^{\prime}) \overset{f}{\rightarrow} (D;O)$の存在を示せる(第13週).
また,$f_{*}$が単射 (injection) であることを示せる(第10週).よって,
\pi_{1}(D^{\prime}; O^{\prime})
\cong f_{*}\bigl(\pi_{1}(D^{\prime}; O^{\prime})\bigr)
\end{aligned}
第10週:被覆面と基本群(つづき)
被覆$f:D^{\prime}\to D$を考える.C^{\prime}: [0,1] \ni t \mapsto P^{\prime}(t) \in D^{\prime}
\end{aligned}
f(C^{\prime}): [0,1] \ni t \mapsto f(P^{\prime}(t)) \in D
\end{aligned}
逆に,$D$内の曲線$C$に対応する$D^{\prime}$内の曲線は,曲線$C$の始点$Q$を$f^{-1}(Q) = \{ P_{i} \}_{i}$のどの$P_{i}$に対応させるかを定めれば(被覆の性質から)決まる.本書では,これを$P_{i}$を始点とする$C$の「モチアゲ・トレース」と呼ぶ.
C: [0,1] \ni t \mapsto P(t) \in D
\end{aligned}
C^{\prime}: [0,1] \ni t \mapsto P^{\prime}(t) \in D^{\prime}
\end{aligned}
f(P^{\prime}(t)) = P(t)
\end{aligned}
つまり,$D^{\prime}$の曲線$C^{\prime}$で.オッコトシ・トレースが$C$に一致するもの(i.e. $f(C^{\prime}) = C$)が,$C$のモチアゲ・トレースです.
- $D$の曲線$C$上の点$R$に対して,$f^{-1}(R) = \{ S_{i} \}_{i}$の各点$S_{i}$は,$P_{i}$を始点とする$C$の「モチアゲ・トレース」上の点である.このとき,$S_{i} \neq S_{j} \; (i\neq j)$が成り立つ(第8週:複製された住人同士は出会わない!).特に,終点が一致することもないため,始点と同じ個数だけ終点ができる.
- 点$P_{i}$を始点とする$C$の「モチアゲ・トレース」は一意に定まる.
- (問題)任意の$Q \in D$に対し$f^{-1}(Q)$の点の個数は同じ.
- もし,$S_{i}=S_{j}$となる点があると,この点の近傍$V$をどうとっても$f|_{V}$が単射でなくなり,$f$が被覆写像であることに反する.
- 点$P_{i}$を始点とする$C$の「モチアゲ・トレース」を$C^{\prime}_{i}$で表す.曲線$C$の始点の周りのコピアブルな近傍$U$と,点$P_{i}$の周りの$U$のコピー$V_{i}$は同相写像$(f|_{V_{i}})^{-1}$で対応している.よって,$C\cap U$と$C^{\prime}_{i}\cap V_{i}$の対応は一意的($V_{i}$内で$f(C^{\prime}_{i} \cap V_{i}) = C\cap U$となる$C^{\prime}_{i}$は他にない).以上を,$C\cap U$($C^{\prime}_{i}\cap V_{i}$)の終点を始点に読み替えて繰り返せば,曲線全体でも一意性が示せる(結局,書籍中の「モチアゲ・トレース」の構成方法で一意性も示している).(補足:「モチアゲ・トレース」は,「一つの」写像$f$を制限してつくった同相写像をもとに構成される.点$X \in D^{\prime}$のまわりの「モチアゲ・トレース」を構成する際,$f$の制限写像として$f|_{V}, f|_{W},...$のどれを使うかという自由度があり得るが,どれも同じ写像$f$の制限なので同じ「モチアゲ・トレース」ができる.)
- $Q \in D$を固定し,任意の点$N$に対して「$f^{-1}(Q)$の点の個数」が「$f^{-1}(N)$の点の個数」と等しくなることを示す.
$D$は連結なので,$Q$を始点・$N$を終点とする曲線$C\subset D$をとることができる.ここで,$f^{-1}(Q) = \{ P_{i} \}_{i\in X}$の各点を始点とする$C$の「モチアゲ・トレース」を考えると,その終点の集合は$\{M_{i}\}_{i\in X} \subset f^{-1}(N)$である.よって,$|f^{-1}(Q)| = |X| \leq |f^{-1}(N)|$がわかる($|A|$で集合$A$の要素の数を表す).
$C$の逆向きの曲線$C^{-1}$についても同じことを考えれば,$|f^{-1}(N)| \leq |f^{-1}(Q)|$がわかる.
以上より,$|f^{-1}(Q)| = |f^{-1}(N)|$となる.
曲線$C_{0}$から$C_{1}$への連続変形は,コピアブルな近傍内での連続変形の組み合わせで表現できる.したがって,コピアブルな近傍内の曲線について主張が成り立つことを示せば良い.コピアブルな近傍内の曲線の「モチアゲ・トレース」は,同相写像によって構成されるので,homotope な曲線の「モチアゲ・トレース」はhomotope な曲線になる.//
これより,次が成り立つ.
f_{*}: \pi_{1}(D^{\prime}; O^{\prime}) \ni (A) \mapsto \bigl(f(A)\bigr) \in \pi_{1}(D; O)
\end{aligned}
予備定理より,$\ker (f_{*}) = \{1\}$.//
第11週:被覆変換群
$f:D^{\prime}\to D$を被覆とする.$P_{1}, P_{2} \in D^{\prime}$が$f(P_{1}) = f(P_{2})$を満たすとき,2点は共役であるという.
また,$C \subset D$のモチアゲ・トレースでできる$\deg(f)$個の曲線を,互いに共役であるという(共役な点と同じように,オッコトシ・トレースが同一($f(C^{\prime}_{1}) = f(C^{\prime}_{2})$)なら,$C^{\prime}_{1}$と$C^{\prime}_{2}$は共役).
任意の閉曲線$C^{\prime} \subset D^{\prime}$の共役がすべて閉曲線であるとき,$f$を$D$のガロア被覆(またはnormalな被覆)と呼ぶ(← $D$の閉曲線が$D^{\prime}$で閉曲線に対応するとは限らない!).
f\circ \sigma
= f
\end{aligned}
$f:D^{\prime}\to D$の被覆変換全体$\Gamma(f)$は群をなす.これを$f:D^{\prime}\to D$の被覆変換群と呼ぶ.
曲線$C_{1}^{\prime}$を
C_{1}^{\prime}: [0,1] \ni t \mapsto P_{1}^{\prime}(t) \in D^{\prime}
\end{aligned}
\sigma(C_{1}^{\prime}):
[0,1] \ni t \mapsto \sigma(P_{1}^{\prime}(t)) \in D^{\prime}
\end{aligned}
f\bigl(\sigma(C_{1}^{\prime})\bigr):
[0,1] \ni t \mapsto f\bigl(\sigma(P_{1}^{\prime}(t))\bigr) = f (P_{1}^{\prime}(t)) \in D
\end{aligned}
これは,曲線$C_{1}^{\prime}$のそのオッコトシ・トレース
f(C_{1}^{\prime}):
[0,1] \ni t \mapsto f (P_{1}^{\prime}(t)) \in D
\end{aligned}
よって,$\sigma(C_{1}^{\prime})$は,$\sigma(P_{1}^{\prime}(0))$を始点とする$f(C_{1}^{\prime})$のモチアゲ・トレースである.//
- $\sigma(P_{1}) = P_{2} \Rightarrow P_{1},P_{2}$は共役
- $P_{1},P_{2}$が共役 $\Rightarrow \sigma(P_{1}) = P_{2}$を満たす被覆変換が存在する場合,$\sigma$は一意に定まる.
- 被覆変換の定義による.
- $P_{1}$を始点,任意の点$P$を終点とする曲線$C_{1}^{\prime}$を考える.すると,$C_{2}^{\prime} = \sigma(C_{1}^{\prime})$は,$\sigma(P_{1}) = P_{2}$を始点とする$C_{1}^{\prime}$に共役な曲線なので一意に定まる.よって,$\sigma(P)=(C_{2}^{\prime}$の終点$)$と一意に決まってしまう.
【補足】
- 命題11.1より,$\sigma$は唯一つ存在する.
- $f$の被覆変換は全部で$\deg(f)$個存在する($P_{1}$を共役などの点に移すかを考えれば良い).
$P_{1}$を始点,任意の点$Q_{1}$を終点とする曲線$C_{1}^{\prime}$を考える.このとき,曲線$P_{2}$を始点とする,$C_{1}^{\prime}$に共役な曲線を$C_{2}^{\prime}$とする.
$f$がガロア被覆であることから,$C_{2}^{\prime}$の終点は$C_{1}^{\prime}$の終点$Q_{1}$だけに依存し,途中経路のとり方に依らないことがわかる(*2).この点を$Q_{2}$とする.写像$\sigma:D^{\prime} \ni Q_{1} \mapsto Q_{2} \in D^{\prime}$が,求める被覆変換である.//
- $f_{*}(\pi_{1}(D^{\prime}; O^{\prime})) \lhd \pi_{1}(D; O)$ (正規部分群,normal subgroup)
- $\pi_{1}(D; O) / f_{*}(\pi_{1}(D^{\prime}; O^{\prime})) \cong \Gamma(f:D^{\prime}\to D)$
$x \in \pi_{1}(D; O)$を任意に1つとる.$x$の代表元($O$を始点・終点とする閉曲線)$A$の「$O^{\prime}$を始点とするモチアゲ・トレース」の終点は,代表元$A$のとり方に依らずに定まる(第10週「予備定理」).そこで,この終点を$P(x)$と表す.このとき,$A$は閉曲線であるから,$P(x)$と$O^{\prime}$は共役である.
被覆変換$\sigma(O^{\prime} ; P(x)) \in \Gamma(f:D^{\prime}\to D)$を考える.写像
\psi: \pi_{1}(D; O)\ni x \mapsto \sigma(O^{\prime} ; P(x)) \in \Gamma(f:D^{\prime}\to D)
\end{aligned}
以下,i),ii)を示す.
i) $\psi$が全射準同型写像であること.
全射性:$\Gamma(f:D^{\prime}\to D)$の任意の元は$y = \sigma(O^{\prime} ; P)$の形で表せるので,任意に1つ取る.$O^{\prime}$を始点,$P$を終点とする曲線を$C^{\prime}$とする.この曲線のオッコトシ・トレース$f(C^{\prime})$を含むhomotopy class $x = \bigl(f(C^{\prime})\bigr) \in \pi_{1}(D; O)$に対して,$\psi(x) = y$となる.
準同型写像であること:$x,y \in \pi_{1}(D; O)$に対して
\sigma(O^{\prime} ; P(x\cdot y)) = \sigma(O^{\prime} ; P(x)) \circ \sigma(O^{\prime} ; P(y))
\end{aligned}
- $f$がガロア被覆なので,$O^{\prime}\mapsto P(x\cdot y)$を満たす被覆変換は存在し,一意的である(命題11.1,定理11.1)
- 被覆変換の合成写像は被覆変換になる(被覆変換群)
まず,
& \Bigl( \sigma(O^{\prime} ; P(x)) \circ \sigma(O^{\prime} ; P(y)) \Bigr) (O^{\prime}) \\
&= \sigma(O^{\prime} ; P(x)) \Bigl( \sigma(O^{\prime} ; P(y)) \bigl( O^{\prime} \bigr) \Bigr) \\
&= \sigma(O^{\prime} ; P(x)) \bigl( P(y) \bigr) \\
\end{aligned}
一方で,
& P(x\cdot y) \\
&= (\text{$O^{\prime}$を始点とする,$x\cdot y$のモチアゲ・トレースの終点})
\end{aligned}
下線部はいずれも「$O^{\prime}$を始点・$P(y)$を終点とする曲線に共役な,$P(x)$を始点とする曲線の終点」を指している.$f$がガロア被覆であるとき,終点は曲線のとり方に依らず一意に定まる(定理11.1の証明中)から,これらの終点は一致する.
以上より,示された.
ii) $\ker(\psi) = f_{*}(\pi_{1}(D^{\prime}; O^{\prime}))$であること.
$\ker(\psi) \subset f_{*}(\pi_{1}(D^{\prime}; O^{\prime}))$:$x \in \ker(\psi) \bigl(\Leftrightarrow \psi(x) = \sigma(O^{\prime} ; O^{\prime}) \bigr)$ならば,$x$の代表元$A$の「$O^{\prime}$を始点とするモチアゲ・トレース」は閉曲線になる.これを$A^{\prime}$とすると,$x^{\prime} = (A^{\prime})$は$\pi_{1}(D^{\prime}; O^{\prime})$の元であり,$f(A^{\prime}) = A$なので,$f_{*}(x^{\prime}) = x \in f\bigl( \pi_{1}(D; O) \bigr)$.
$\ker(\psi) \supset f_{*}(\pi_{1}(D^{\prime}; O^{\prime}))$:$x \in f_{*}(\pi_{1}(D^{\prime}; O^{\prime}))$ならば,$D^{\prime}$の閉曲線$A^{\prime}$が存在して$x = \bigl(f(A^{\prime})\bigr)$と表せる.$f(A^{\prime})$の$O^{\prime}$を始点とするモチアゲ・トレースは$A^{\prime}$になり,その終点は$O^{\prime}$であるから,$\psi(x) = \sigma(O^{\prime} ; O^{\prime})$である.
以上より,示された.//
人はしっぽをもっている
第12週:普遍被覆面 (universal covering surface) の構成
$\tilde{D}, D$を2次元多様体,$f:\tilde{D} \to D$を被覆とする.$\tilde{D}$の閉曲線$\tilde{C}$と,その逆向きの閉曲線$\tilde{C}^{-1}$はhomotopeである($\tilde{C} \sim \tilde{C}^{-1}$).よって,そのオッコトシ・トレース同士もhomotope ($f(\tilde{C}) \sim f(\tilde{C}^{-1})$)となる(第9週).このとき,第10週「予備定理」から,$f(\tilde{C})$と$f(\tilde{C}^{-1})$のモチアゲ・トレースはhomotopeである.
$\tilde{C}$の共役$\tilde{C}^{\prime}$は,$f(\tilde{C}^{\prime}) = f(\tilde{C})$,$f(\tilde{C}^{\prime -1}) = f(\tilde{C}^{-1})$を満たすから,$\tilde{C}^{\prime} \sim \tilde{C}^{\prime -1}$である.これは,$\tilde{C}^{\prime}$が閉曲線でないと成り立たない.//
本書では「定義から明らかに」と書いてあるから,もっと簡単に示す方法がありそう.
図11.1で湖をなくしたものは「$D^{\prime}$が単連結だがガロア被覆でない例」になると考えたが,これは間違いである.なぜなら,湖をなくすと被覆にならないことが次のように示せるからである.
まず,湖を1点に潰す.この状態でも被覆になっていると仮定して話を進める.点$Q \in D$からその点を通って点$Q$に戻る曲線を考えると,この曲線の点$P_{1},P_{2}$を始点とする2つのモチアゲ・トレース上の点が$D^{\prime}$の潰された湖上で同時刻に出会う.これによって,点$Q$の周りコピアブルな近傍とそのコピーの同相写像は存在しない(第10週).
これも,もっとわかりやすい説明がありそう.
$V(D;O)=$(始点が$O$の$D$の曲線全体)とする.この集合をhomotopy classで類別した$\tilde{D} = V(D;O) / \sim$に適切な位相を入れて2次元多様体にすると,$D$の普遍被覆面にできる.
◆位相の入れ方:
すでに位相の入っている$D$を利用して$\tilde{D}$に位相を入れることを考える.そのために,$\tilde{D}$と$D$の対応付け(写像)がほしい.ここで,$D$の元も$\tilde{D}$の元も,$V(D;O)$の元と対応がつくことに着目する.つまり,$C \in V(D;O)$に対して,$C$の終点$e(C)\in D$であり,$C$のhomotopy class $\nu(C) \in \tilde{D}$である.そこで,写像$\pi: \tilde{D} \ni \nu(C) \mapsto e(C) \in D$を考える.
写像ができたので,$\tilde{P}\in\tilde{D}$の$\varepsilon$-近傍$\tilde{U}_{\varepsilon}(\tilde{P})$を,対応する点$P=\pi(\tilde{P})\in D$の$\varepsilon$-近傍$U_{\varepsilon}(P)$を利用して定義する.具体的には,
\tilde{U}_{\varepsilon} (\tilde{P})
&=\{\nu(C\cdot \overrightarrow{PQ}) \mid Q \in U_{\varepsilon} (P)\}
\end{aligned}
i) $\pi: \tilde{D} \to D$が被覆であること:$D$は連結なので,$O$を始点・$D$の任意の点を終点とする曲線が存在する.よって,$\pi$は全射である.$P \in D$に対して$\pi^{-1}(P)$が高々加算個の集合であること:?.$P \in D$に対して$f^{-1} (U_{\varepsilon} (P)) = \bigcup_{\tilde{P} \in \pi^{-1}(P)} \tilde{U}_{\varepsilon} (\tilde{P})$,$\tilde{P} \in \tilde{U}_{\varepsilon} (\tilde{P})$である.$\pi^{-1}(P)$の異なる2要素$\tilde{P}_{1} = \nu(C^{\prime}_{1}), \tilde{P}_{2} = \nu(C^{\prime}_{2})$に対し,$C^{\prime}_{1}$と$C^{\prime}_{2}$はhomotopeでないから,$\tilde{U}_{\varepsilon} (\tilde{P}_{1}) \cap \tilde{U}_{\varepsilon} (\tilde{P}_{2}) = \emptyset$である.$\tilde{U}_{\varepsilon} (\tilde{P})$の元は,$Q \in U_{\varepsilon} (P)$の元と1対1対応しているから,$\pi |_{\tilde{U}_{\varepsilon} (\tilde{P})}$は全単射である.さらに,$\tilde{U}_{\varepsilon} (\tilde{P})$の定義方法から,$\tilde{P}\in\tilde{D}$の$\varepsilon$-近傍と$D$の$\varepsilon$-近傍が対応するから,$\pi |_{\tilde{U}_{\varepsilon} (\tilde{P})}$は連続写像で,逆写像も連続となる.
ii) $\tilde{D}$は2次元多様体になること:同相写像$\pi |_{\tilde{U}_{\varepsilon} (\tilde{P})}$によって,2次元多様体$D$の構造を$\tilde{D}$に持って来られるはず(いずれ詳細を詰めたい).
◆$\tilde{D}$が単連結であること:
$\tilde{O}$を$\pi_{1}(D;O) (\subset \tilde{D})$の単位元にとる.$\tilde{O}$を始点かつ終点とする閉曲線がzero-homotopeであることを示せば良い.そこで,このような閉曲線$\tilde{C}:[0,1]\ni t \mapsto \tilde{P}(t) \in \tilde{D}$を考える($\tilde{P}(0) = \tilde{P}(1) = \tilde{O}$).
このとき,$C\coloneqq \pi(\tilde{C})$は,$\tilde{P}(t)$の(代表元の)終点からなる$D$の曲線である(※終点は代表元に依らない).また,$\pi(\tilde{O}) = O$であるから,$C$は$O$を始点かつ終点とする$D$の閉曲線となる.
ここで,$\tilde{P}(1)$は$C$を代表元に含む(より一般に,$\tilde{P}(t)$は曲線$[0,t] \ni s \mapsto \pi(\tilde{P}(s))$を代表元に含む).したがって,$\tilde{P}(1) = \tilde{O}$は,$\nu(C) = 1 \in \pi_{1}(D;O) (\subset \tilde{D})$を意味する.よって,$C$はzero-homotopeである.
さらに,第10週「予備定理」より,$\tilde{C}$もzero-homotopeとなる.//
- $\pi:\tilde{D} \to D$を普遍被覆,$\tilde{O}\in\tilde{D}, \pi(\tilde{O})=O \in D$
- $f:D^{\prime} \to D$を被覆,$O^{\prime}\in D^{\prime}, f(O^{\prime})=O \in D$
このとき,被覆写像$g: \tilde{D} \to D^{\prime}$で,$g(\tilde{O})=O^{\prime}$,$f\circ g = \pi$を満たすものが唯1つ存在する.
存在:$\tilde{P}\in\tilde{D}$を任意に取る.$\tilde{O}$を始点・$\tilde{P}\in\tilde{D}$を終点とする曲線$\tilde{C}$を考える.$D^{\prime}$における,「$O^{\prime}$を始点とする$\pi(\tilde{C})\in D$のモチアゲ・トレース」の終点を$P^{\prime}$とする.$f(P^{\prime}) = (\pi(\tilde{C})\text{の終点}) = \pi(\tilde{P})$であるから,写像$g:\tilde{D}\ni \tilde{P} \mapsto P^{\prime} \in D^{\prime}$がwell-definedであれば,$g(\tilde{O})=O^{\prime}$,$f\circ g = \pi$が成り立つ.
$g$がwell-definedであること($\tilde{C}$の途中経路のとり方に依らないこと)を示す.$\tilde{O}$を始点・$\tilde{P}\in\tilde{D}$を終点とする曲線$\tilde{C}_{1}, \tilde{C}_{2}$を考えると,$\tilde{D}$が単連結であるから$\tilde{C}_{1} \sim \tilde{C}_{2}$ (homotope) となる.よって,$\pi(\tilde{C}_{1}) \sim \pi(\tilde{C}_{2})$である(第9週).よって,$\pi(\tilde{C}_{1})$と$\pi(\tilde{C}_{2})$のモチアゲ・トレースの終点は一致する(第10週「予備定理」).
$g$が被覆写像であることを示す.i) $g$の全射性:任意の$P^{\prime} \in D^{\prime}$をとる.$O^{\prime}$を始点・$P^{\prime}$を終点とする曲線$C^{\prime}$を考える.$f(C^{\prime})$は始点$O$・終点$f(P^{\prime})$の曲線である.被覆$\pi$により,$f(C^{\prime})$の$\tilde{O}$を始点とするモチアゲ・トレース$\tilde{C}$を考え,その終点を$\tilde{P}$とする($f(C^{\prime}) = \pi(\tilde{C})$,$f(O^{\prime}) = \pi(\tilde{O})$,$f(P^{\prime}) = \pi(\tilde{P})$).このとき,$f$による$\pi(\tilde{C})$の$O^{\prime}$を始点とするモチアゲ・トレースは$C^{\prime}$であるから,$g(\tilde{P})=P^{\prime}$.よって,$g$は全射である.ii) $g$が連続であること:
一意性:$g,h$に対して$g(\tilde{O}) = h(\tilde{O}) = O^{\prime}$,$f \circ g = f \circ h = \pi$であるとする.
点$\tilde{P} \in \tilde{D}$を任意に取る.このとき,$\tilde{O}$を始点・$\tilde{P}$を終点とする$\tilde{D}$の曲線$\tilde{C}$を考える($\tilde{D}$は弧状連結なので存在する).
オッコトシ・トレースを考えると,$f \bigl(g(\tilde{C})\bigr) = f \bigl(h (\tilde{C})\bigr) =\pi(\tilde{C})$である.さらに,$g(\tilde{C})$の始点も$h (\tilde{C})$の始点も$O^{\prime}$であるから,$g(\tilde{C}) = h (\tilde{C})$となる(第10週:モチアゲ・トレースの一意性).よって,終点を考えれば$g(\tilde{P}) = h (\tilde{P})$である.//
第13週:$(D;O)$の被覆類と$\pi_{1}(D;O)$の部分群の対応
\begin{cases}
\, (D_{1}^{\prime};O_{1}^{\prime}) \overset{f_{1}}{\rightarrow} (D;O) \\
\, (D_{2}^{\prime};O_{2}^{\prime}) \overset{f_{2}}{\rightarrow} (D;O)
\end{cases}
\end{aligned}
g:D_{1}^{\prime} \to D_{2}^{\prime}
\end{aligned}
\begin{cases}
\, g(O_{1}^{\prime}) = O_{2}^{\prime} \\
\, f_{2} \circ g = f_{1}
\end{cases}
\end{aligned}
$g,h$に対して$g(O_{1}^{\prime}) = h(O_{1}^{\prime}) = O_{2}^{\prime}$,$f_{2} \circ g = f_{2} \circ h = f_{1}$であるとする.
点$P_{1}^{\prime} \in D_{1}^{\prime}$を任意に取る.このとき,$O_{1}^{\prime}$を始点・$P_{1}^{\prime}$を終点とする$D_{1}^{\prime}$の曲線$C_{1}^{\prime}$を考える($D_{1}^{\prime}$は弧状連結なので存在する).
オッコトシ・トレースを考えると,$f_{2}\bigl(g(C_{1}^{\prime})\bigr) = f_{2}\bigl(h (C_{1}^{\prime})\bigr) = f_{1}(C_{1}^{\prime})$である.さらに,$g(C_{1}^{\prime})$の始点も$h (C_{1}^{\prime})$の始点も$O_{2}^{\prime}$であるから,$g(C_{1}^{\prime}) = h (C_{1}^{\prime})$となる(第10週:モチアゲ・トレースの一意性).よって,終点を考えれば$g(P_{1}^{\prime}) = h (P_{1}^{\prime})$である.//
\begin{cases}
\, (D_{1}^{\prime};O_{1}^{\prime}) \overset{f_{1}}{\rightarrow} (D;O) \\
\, (D_{2}^{\prime};O_{2}^{\prime}) \overset{f_{2}}{\rightarrow} (D;O)
\end{cases}
\end{aligned}
- 被覆$f_{1}$と$f_{2}$が同値
- $f_{1}^{*} ( \pi_{1}(D_{1}^{\prime};O_{1}^{\prime}) ) = f_{2}^{*} ( \pi_{1}(D_{2}^{\prime};O_{2}^{\prime}) )$