POINT
両側検定か,片側検定かはどうやって決まるのか?という話です.- 両側か片側かを決めるのは,主張したい「対立仮説$H_{1}$」である.
「母平均の検定」を例に,両側検定と片側検定を整理します.
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統計的仮説検定の復習
有意水準$\alpha$の「両側検定」とは,- 標本の値を基に計算できる「検定統計量$X$」があって,
- 帰無仮説$H_{0}$が正しい場合の$X$の確率分布が既知であり,
- したがって,「$X$の確率分布の上側$100\alpha \%$点$x_{\alpha}$」,つまり,$P(X \geq x_{\alpha}) = \alpha$を満たす点$x_{\alpha}$が既知であるときに,
- $|X\text{の実現値}| > x_{\alpha / 2} $なら帰無仮説$H_{0}$を棄却(対立仮説$H_{1}$を採択)する
同様に,「$|X\text{の実現値}| > x_{\alpha / 2} $」の部分を
- 「$X\text{の実現値} > x_{\textcolor{red}{\alpha}} $」や
- 「$X\text{の実現値} < x_{\textcolor{blue}{1-\alpha}} $」
ここで,事前に指定できる「有意水準$\alpha$」は「$H_{1}$を誤って採択する確率」を意味する.
一方で,「$H_{0}$を誤って採択する確率($H_{1}$を誤って棄却する確率)」は,標本の値を基に計算できる何らかの「統計量$Y$」があって,$H_{1}$が正しい場合の$Y$の確率分布が既知でない限り,知ることができない.
この理由により,通常,主張したい仮説は対立仮説$H_{1}$に設定する(*1).
母平均の検定
$X_{1},...,X_{n}$を正規母集団$N(\mu, \sigma^{2})$からの無作為標本とする.いま,
- $\mu$がある値$\mu_{0}$と異なるという仮説
- $\mu$がある値$\mu_{0}$より大きいという仮説
- $\mu$がある値$\mu_{0}$より小さいという仮説
- $H_{1}: \mu \neq \mu_{0}$
- $H_{1}: \mu > \mu_{0}$
- $H_{1}: \mu < \mu_{0}$
ここで,帰無仮説を「$H_{0}: \mu = \mu_{0}$」とし,検定統計量を
\begin{aligned}
Z = \frac{\bar{X} - \mu_{0}}{\sqrt{\sigma^{2}/n}}
\end{aligned}
とすると,上記の3つの仮説を統一的に処理できる(*2).Z = \frac{\bar{X} - \mu_{0}}{\sqrt{\sigma^{2}/n}}
\end{aligned}
すなわち,
- 帰無仮説「$H_{0}: \mu = \mu_{0}$」が正しい場合は$Z \sim N(0,1)$だから上側$100\alpha \%$点$z_{\alpha}$は既知であり,
- 3つの対立仮説$H_{1}$でやりたいことは,それぞれ
- $H_{1}: \mu \neq \mu_{0}$の場合:$\mu$が$\mu_{0}$より十分に大きい場合か,$\mu_{0}$より十分に小さい場合に$H_{0}$を棄却する
- $H_{1}: \mu > \mu_{0}$の場合:$\mu$が$\mu_{0}$より十分に大きい場合だけ$H_{0}$を棄却する
- $H_{1}: \mu < \mu_{0}$の場合:$\mu$が$\mu_{0}$より十分に小さい場合だけ$H_{0}$を棄却する
- $H_{1}: \mu \neq \mu_{0}$の場合:$P(|Z\text{の実現値}| > z_{\alpha / 2}) \Rightarrow H_{0}$を棄却する
- $H_{1}: \mu > \mu_{0}$の場合:$P(Z\text{の実現値} > z_{\textcolor{red}{\alpha}}) \Rightarrow H_{0}$を棄却する
- $H_{1}: \mu < \mu_{0}$の場合:$P(Z\text{の実現値} < z_{\textcolor{blue}{1-\alpha}}) \Rightarrow H_{0}$を棄却する
つまり,1. が「両側検定」,2, 3が「片側検定」になっているというだけで,同じ帰無仮説「$H_{0}: \mu = \mu_{0}$」と検定統計量$Z$を使って3つのパターンを定式化できた.
参考文献
- [1] 入門統計解析 (倉田博史・星野崇宏):8「統計的仮説検定」
- [2] 統計学入門 (東京大学教養学部統計学教室):第12章「仮説検定」