【読書メモ】新しい免疫入門(審良静男、黒崎知博)

POINT

  • 免疫は「動的」なシステムである(免疫細胞は全体で調和を取りながら体内を循環する).
  • 病原体が関わらない「自然炎症」は,痛風,塵肺・珪肺,アルツハイマー病,動脈硬化,糖尿病などの原因になると考えられている.
  • 「がんペプチドワクチン」は,免疫機能を利用し,免疫細胞にがん細胞を攻撃させる仕組みである.

何も知らない状態で読み始めましたが,説明がわかりやすく,最後まで読み切ることができました.内容もとても面白かったです!

ヒトの体にこんな複雑な仕組みが備わっているなんて,驚きです.
一方で,まだまだ未知の領域であることもわかりました.これからの進歩が楽しみです!

自然免疫

「自然免疫」とは「食細胞」が病原体を食べて処理する働きのことである.

「食細胞」は,ヒトの正常な細胞以外を,手当り次第に何でも食べる細胞である.食細胞には「マクロファージ」,「好中球」,「樹状細胞」がある.

免疫細胞の分類
白血球 食細胞 マクロファージ
好中球
樹状細胞

おおまかな流れは,以下の通り.

  1. 食細胞が病原体を食べる.
  2. 病原体の物質(リガンド)が,食細胞のパターン認識受容体(*1)や酵素(*2)に結合する.
  3. 物質結合がトリガーとなり,食細胞が活性化する.
  4. 食細胞が警報物質(サイトカイン)を出す.
  5. 警報物質(サイトカイン)が,免疫細胞を集めて活性化する(炎症).

獲得免疫

「獲得免疫」とは,「抗原」の刺激を受けて初めて獲得する,「抗原特異的」(その抗原だけに対処する)な仕組みである.

ここで,「抗原」とは,細菌,ウイルス,真菌,毒素などを指す.

ヘルパーT細胞による食細胞の活性化

おおまかな流れは,以下の通り.
  • 樹状細胞は,手当り次第に何でも食べ,
    1. 食べたもののタンパク質をペプチドに分解する.
    2. ペプチドを「MHCクラスII分子」に結合し,細胞表面に提示する(*3).
  • もし,樹状細胞が抗原を食べて活性化(自然免疫を参照)した場合,
    1. 樹状細胞の寿命が数日にセットされる(死のタイマー).
    2. 樹状細胞が,末梢からリンパ節に移動する(*4).
    3. 樹状細胞が,リンパ節の「ナイーブヘルパーT細胞(*5)」に「抗原提示」する.
    4. あるナイーブヘルパーT細胞の「T細胞抗原認識受容体」が,樹状細胞の「MHCクラスII分子+ペプチド」に結合する.
    5. ヘルパーT細胞が活性化する.
    6. 活性化したヘルパーT細胞が増殖する(1,000〜10,000倍).
    7. 増殖した活性化ヘルパーT細胞の大部分が,末梢へ移動する(一部はリンパ節に残る(リンパ節を巡回する)→次節でB細胞と出会う).
    8. 末梢に移動した活性化ヘルパーT細胞が,抗原提示している活性化マクロファージ(*6)に結合する.
    9. マクロファージがさらに活性化し,消化・殺菌能力が強まる.

免疫細胞の分類
白血球 食細胞 マクロファージ
好中球
樹状細胞
T細胞 ヘルパーT細胞
キラーT細胞

B細胞による抗体生産

おおまかな流れは,以下の通り.
  1. リンパ節にいる「ナイーブB細胞」の細胞表面にある「B細胞抗原認識受容体」に,抗原が結合する.
  2. ナイーブB細胞が,結合した抗原を食べる.
  3. ナイーブB細胞が,食べた抗原のタンパク質をペプチドに分解する.
  4. ペプチドを「MHCクラスII分子」に結合し,細胞表面に提示する(*7).
  5. B細胞が,前節でリンパ節に残った「活性化ヘルパーT細胞」に「抗原提示」する.
  6. ある活性化ヘルパーT細胞の「T細胞抗原認識受容体」が,B細胞の「MHCクラスII分子+ペプチド」に結合する(*8).
  7. B細胞が活性化する.
  8. 活性化したB細胞が増殖し,「プラズマ細胞(抗体生産細胞)」になる(一部は「記憶B細胞」になる).
  9. 細胞外に分泌された抗体により,①抗原(毒素・ウイルス)の中和,②オプソニン化(食細胞と抗原を結合させ,食べやすくする)が起きる.

免疫細胞の分類
白血球 食細胞 マクロファージ
好中球
樹状細胞
T細胞 ヘルパーT細胞
キラーT細胞
B細胞

キラーT細胞による細胞破壊

ここまでは,細胞外の病原体に対する働きだった.細胞内に侵入した病原体は,キラーT細胞によって細胞ごと破壊される.

おおまかな流れは,以下の通り.

  1. 樹状細胞が手当り次第に何でも食べ,食べたもののタンパク質をペプチドに分解する.
  2. ペプチドを「MHCクラスI分子」に結合し,細胞表面に提示する.
  3. 樹状細胞が,「ナイーブキラーT細胞」に「抗原提示」する.
  4. あるナイーブキラーT細胞の「T細胞抗原認識受容体」が,樹状細胞の「MHCクラスI分子+ペプチド」に結合する.
  5. 同時に,あるナイーブヘルパーT細胞の「T細胞抗原認識受容体」が,樹状細胞の「MHCクラスII分子+ペプチド」に結合し,ヘルパーT細胞が活性化する.
  6. キラーT細胞が活性化する.
  7. 活性化したキラーT細胞が増殖する.
  8. 活性化キラーT細胞が感染部位に移動する.
  9. 活性化キラーT細胞の「T細胞抗原認識受容体」が,感染細胞の「MHCクラスI分子+ペプチド」に結合する(*9).
  10. 活性化キラーT細胞が,結合した感染細胞を破壊する(アポトーシスを誘導する).
  11. アポトーシスを起こした感染細胞を,食細胞が処理する.

ナチュラルキラー細胞による細胞破壊

病原体のなかには,感染細胞がMHCクラスI分子を表面に出さないようにするものがある.こうした病原体は,キラーT細胞では対応できず,ナチュラルキラー細胞(NK細胞)がアポトーシスを誘導する.

免疫細胞の分類
白血球 食細胞 マクロファージ
好中球
樹状細胞
T細胞 ヘルパーT細胞
キラーT細胞
B細胞
NK細胞

*1:TLR(トル様受容体),RLR(リグアイ様受容体),CLR(Cタイプレクチン受容体),NLR(ノッド様受容体).

*2:cGAS

*3:したがって,提示されるペプチドは,①病原体由来のペプチド,②自己細胞由来のペプチド,がある.

*4:①活性化すると,ケモカインと反応する受容体を細胞表面に出す.②ケモカインに誘導され,リンパ節に移動する.

*5:抗原に未遭遇のT細胞を,「ナイーブT細胞」と呼ぶ

*6:ヘルパーT細胞を活性化させた樹状細胞が提示した「MHCクラスII分子+ペプチド」と同じものを提示しているマクロファージがいるはず.

*7:何でも食べる樹状細胞とは異なり,B細胞は受容体に結合したものしか食べない.したがって,自己細胞由来のペプチドは提示されない.

*8:B細胞が提示している「MHCクラスII分子+ペプチド」と同じものを提示した樹状細胞によって活性化されたヘルパーT細胞がいるはず.

*9:キラーT細胞を活性化させた樹状細胞が提示した「MHCクラスI分子+ペプチド」と同じものを提示している感染細胞がいるはず.