無次元化とは?物理・数値計算での意味とメリットを具体例(単振り子・シュレーディンガー方程式)で解説

物理や数値計算で重要なテクニックである「無次元化」とは,物理量を次元のない量(無次元量)に変換する方法です.特に数値シミュレーションなどの分野で必須となる概念です.無次元化により方程式を簡略化できるだけでなく,数値計算の精度向上や物理現象の本質を見えやすくするメリットがあります.この記事では,「無次元化のメリット」や「具体的手順」を単振り子やシュレーディンガー方程式の具体例でわかりやすく解説します.

無次元化とは

無次元化とは,次元をもつ変数を適当な基準で割り,無次元量へと変換する操作のことです.
具体的には,方程式に登場する物理量(長さ,時間など)を,特定の基準(単位)で割ることで,次元のない量に変換します.

無次元化
理論に出てくる変数を,全て無次元量に変数変換すること.

無次元化の必要性とメリット

① 方程式が簡単になる

方程式に現れる変数が減り,単純な式になります.複雑な問題もシンプルになるため,解析や計算が楽になります.

② 相似解が明確になる

無次元化することで,「どのような条件で解が相似になるか」が明確になります.これは現象の本質を理解するために非常に重要です.

例はこちら:
流体力学における無次元数(レイノルズ数・レイリー数など)の意味と使い方

③ 数値計算の精度向上

数値計算では,変数の桁が極端に大きく(または小さく)なりすぎると計算誤差が生じます.無次元化により,適切なスケールに揃えることができ,数値計算の安定性や精度が向上します.


>無次元化の方法・手順を3ステップで解説<

ステップ1:変数の次元を把握する

まずは,方程式に現れる各変数の次元を把握します.

物理量は,以下の基本量の積で表される次元を持ちます(量の次元 - Wikipedia).


基本量 長さ 質量 時間 電流 温度 物質量 光度
次元 $\sf{L}$ $\sf{M}$ $\sf{T}$ $\sf{I}$ $\sf{\Theta}$ $\sf{N}$ $\sf{J}$

以下では,物理量の次元を$[$物理量$]$で表すことにします.

各変数の次元は,方程式から求めることができます.例えば,力$F$の次元を求めるには運動方程式

\begin{aligned}
m\frac{\mathrm{d}^2 x}{\mathrm{d}t^2} = F
\end{aligned}
を考えます.すると,$[m]=\sf{M}$と$[x]=\sf{L}$から

  • $\biggl[\dfrac{\mathrm{d}^2 x}{\mathrm{d}t^2}\biggr]=[x][t]^{-2}=\sf{L}\sf{T}^{-2}$
  • $[F]=[m]\cdot \biggl[\dfrac{\mathrm{d}^2 x}{\mathrm{d}t^2}\biggr]=\sf{M}\sf{L}\sf{T}^{-2}$

であることがわかります.

ステップ2:基準となる量を定める

問題現れる「定数」を組み合わせて,基本量の次元$(\sf{L,M,T,I,\Theta,N,J})$を持つ物理量$(l_0,m_0,t_0,i_0,\theta_0,n_0,j_0)$をつくる.

ステップ3:物理量を無次元化する

全ての変数を,上でつくった$(l_0,m_0,t_0,i_0,\theta_0,n_0,j_0)$を単位とするように変数変換する.

つまり,物理量$X$の次元が$[X]=\sf{L}^a\sf{M}^b\sf{T}^c\sf{I}^d\sf{\Theta}^e\sf{N}^f\sf{J}^g$であるとき,

\begin{aligned}
\bar{X} = \frac{X}{l_0^a\, m_0^b\, t_0^c\, i_0^d\, \theta_0^e\, n_0^f\, j_0^g}
\end{aligned}
と変数変換する.

この変数変換により,物理量$\{X_i\}_i$で表される理論は,無次元量$\{\bar{X}_i\}_i$だけで表すことができる.つまり,次元を持つ量$(l_0,m_0,t_0,i_0,\theta_0,n_0,j_0)$の現れない式にできる.

無次元化の具体例

上の手順に従って具体的な問題で無次元化の操作をしてみましょう.簡単なことがわかるはずです!

例1:単振り子

単振り子
長さ$l$の棒の先に繋がれた,質量$m$の物体の運動(単振り子)について考えます.次元解析で周期を求める例としてもよく使われますね.

単振り子の運動方程式は以下のように表されます:

\begin{aligned}
m\frac{\mathrm{d}^2}{\mathrm{d}t^2} \left(l\theta \right)= -mg\sin\theta
\end{aligned}

まず両辺の質量$m$は打ち消せるので,次のように簡略化できます:

\begin{aligned}
l \frac{\mathrm{d}^2 \theta}{\mathrm{d}t^2} = -g\sin\theta
\end{aligned}

方程式に現れる物理量の次元は以下の通りです.これより,現れる次元は$\sf{L},\sf{T}$だけであることがわかりました.


既知の定数 / 関数 未知の定数 / 関数
物理量 $l$ $g$ $t$ $\theta$
次元 $\sf{L}$ $\sf{L}\sf{T}^{-2}$ $\sf{T}$ 無次元

次元$\sf{L},\sf{T}$を持つ物理量として一番簡単なものは,それぞれ


次元 $\sf{L}$ $\sf{T}$
単位とする物理量 $l$ $\sqrt{l/g}$
です.そこで,これらを用いて(これらを単位として)物理量を無次元化しましょう.つまり,


既知の定数 / 関数 未知の定数 / 関数
物理量 $l$ $g$ $t$ $\theta$
無次元化した
物理量
$\bar{l}=\dfrac{l}{l}=1$ $\bar{g}=\dfrac{g}{l\bigl(\sqrt{l/g}\bigr)^{-2}}=1$ $\bar{t}=\dfrac{t}{\sqrt{l/g}}=\sqrt{\dfrac{g}{l}}t$ 無次元

と変数変換すると,

\begin{aligned}
\left(\bar{l}l\right) \frac{g}{l}\frac{\mathrm{d}^2 \theta}{\mathrm{d}\bar{t}^2} = -\left(\bar{g}g\right)\sin\theta
\end{aligned}
となります$\left(\dfrac{\mathrm{d} \theta}{\mathrm{d}t}=\dfrac{\mathrm{d} \bar{t}}{\mathrm{d}t}\dfrac{\mathrm{d} \theta}{\mathrm{d}\bar{t}}=\sqrt{\dfrac{g}{l}}\dfrac{\mathrm{d} \theta}{\mathrm{d}\bar{t}}\right)$.

ここで,

  • 次元を持つ量$l,g$を消去する(方程式の両辺の次元は等しいので,「必ず」両辺で同じ次数で現れることに注意!
  • $\bar{l}=\bar{g}=1$に注意する

ことで

単振り子の「無次元化された」運動方程式
\begin{aligned}
\frac{\mathrm{d}^2 \theta}{\mathrm{d}\bar{t}^2} = -\sin\theta
\end{aligned}
が求められました.


この無次元化した式をもとにしたPythonで数値計算や,単振り子の厳密解についてはこちらをご覧ください:
単振り子のPython数値計算と厳密解

例2:Schrödinger方程式

Schrödinger方程式の無次元化を行い,方程式が簡略化される様子を確認します.

1次元のSchrödinger方程式を考えましょう:

\begin{aligned}
-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\mathrm{d}^2 \varphi}{\mathrm{d} x^2}(x) + V(x)\varphi(x) = E\varphi(x)
\end{aligned}


ポテンシャル$V(x)$を決定するパラメータを$a$とします(例えば,井戸型ポテンシャルであれば,井戸の幅など).すると,各物理量とその次元は以下でまとめられます:



既知の定数 / 関数 未知の定数 / 関数
物理量 $\hbar$ $m$ $a$ $V(x)$ $E$ $x$ $\varphi(x)$
次元 $\sf{M}\sf{L}^2\sf{T}^{-1}$ $\sf{M}$ $\sf{L}$ $\sf{M}\sf{L}^2\sf{T}^{-2}$ $\sf{M}\sf{L}^2\sf{T}^{-2}$ $\sf{L}$ $\sf{L}^{-1/2}$

現れる次元は$\sf{M},\sf{L},\sf{T}$なので,それぞれの次元の単位として以下を選びます:


次元 $\sf{M}$ $\sf{L}$ $\sf{T}$
単位とする物理量 $m$ $a$ $ma^2/\hbar$

これらを単位として各物理量を無次元化すると,



既知の定数 / 関数
物理量 $\hbar$ $m$ $a$ $V(x)$
無次元化した
物理量
\begin{aligned} \bar{\hbar}&=\dfrac{\hbar}{ma^2 \left(ma^2/\hbar \right)^{-1}}\\&=1 \end{aligned}
\begin{aligned} \bar{m}&=\dfrac{m}{m}\\&=1 \end{aligned}
\begin{aligned} \bar{a}&=\dfrac{a}{a}\\&=1 \end{aligned}
\begin{aligned} \bar{V}(\bar{x})&=\dfrac{V(x)}{ma^2 \left(ma^2/\hbar \right)^{-2} }\\&=\frac{ma^2}{\hbar^2}V(a\bar{x}) \end{aligned}




未知の定数 / 関数
物理量 $E$ $x$ $\varphi(x)$
無次元化した
物理量
\begin{aligned} \bar{E}&=\dfrac{E}{ma^2 \left(ma^2/\hbar \right)^{-2} }\\&=\frac{ma^2}{\hbar^2}E \end{aligned}
$\bar{x}=\dfrac{x}{a}$
\begin{aligned} \bar{\varphi}(\bar{x})&=\dfrac{\varphi(x)}{a^{-1/2}}\\&=\sqrt{a}\varphi(a\bar{x}) \end{aligned}

これらの変数変換を行うと


\begin{aligned}
- \frac{\left(\bar{\hbar}\hbar\right)^2}{2\left(\bar{m}m\right)}
\cdot \frac{1}{a^2}\frac{\mathrm{d}^2 \left(\bar{\varphi}/\sqrt{a} \right)}{\mathrm{d} \bar{x}^2} (\bar{x})
+ \frac{\hbar^2 \bar{V}(\bar{x})}{ma^2} \frac{\bar{\varphi}(\bar{x}) }{\sqrt{a}}
= \frac{\hbar^2 \bar{E}}{ma^2} \frac{\bar{\varphi}(\bar{x}) }{\sqrt{a}}
\end{aligned}
となります.両辺から次元のある量を消去する$\Bigg(\dfrac{\hbar^2}{m\sqrt{a}a^2}$で割る$\Bigg)$ことで,無次元化されたSchrödinger方程式が求められます:
無次元化されたSchrödinger方程式
\begin{aligned}
- \frac{1}{2} \frac{\mathrm{d}^2 \bar{\varphi}}{\mathrm{d} \bar{x}^2} (\bar{x})
+ \bar{V}(\bar{x})\bar{\varphi}(\bar{x})
= \bar{E}\bar{\varphi}(\bar{x})
\end{aligned}


繰り返しになりますが,この一連の操作で両辺から次元のある量を全て消去できるのは偶然ではありません


無次元化したSchrödinger方程式を使った計算例はこちらで紹介しています:
時間依存する無限井戸型ポテンシャルでの数値計算

まとめ:無次元化のポイント

無次元化は,物理・数値計算において非常に重要な手法です.今回解説したように,単振り子やSchrödinger方程式などの問題を無次元化することで,以下のメリットが得られます:

  • 方程式が簡単になり解析しやすい
  • 物理現象の相似性が明確になり,本質が理解しやすくなる
  • 数値計算の安定性・精度が向上する

物理現象の本質理解や数値計算の効率化に役立つため,ぜひ活用しましょう.

さらに詳しく知りたい場合は,以下の関連記事もご覧ください: