ミラー反射に伴う偏光の計算

POINT

  • ミラーの反射による偏光の変化をジョーンズベクトル・行列で計算する方法のメモ.
  • 座標系の取り方は参考文献[1]に従う.

2つのミラー

図のように2つのミラーで電場の向きを変えるとき,ミラー1に対するp偏光,s偏光を入射したときにどのような電場が出射されるかを考える.
(※以下でみるように,偏光が変化して出射される.)
光線
光線.$\bm{k}$は電場の波数ベクトル.

図示による方法

2つの条件
  • 「p偏光方向,s偏光方向,波数ベクトル方向」が右手形をなす
  • 検出器からみたときに,入射電場と出射電場の「p偏光方向,s偏光方向,波数ベクトル方向」が同じになる
をもとに,入射電場の座標系と出射電場の座標系を定める(下図「入射波の座標系」,「出射波の座標系」).

このとき,ミラー1にp偏光を入射した場合と,ミラー1にs偏光を入射した場合をそれぞれ図示すると,下図のようになる(※ミラー1のp偏光はミラー2のs偏光になり,ミラー1のs偏光はミラー2のp偏光になることに注意).

したがって,入射電場のp偏光,s偏光成分を

\begin{aligned}
\begin{pmatrix}
p \\
s
\end{pmatrix}
\end{aligned}
と表すとき,
\begin{aligned}
\begin{pmatrix}
p \\
0
\end{pmatrix} \mapsto
\begin{pmatrix}
0 \\
-p
\end{pmatrix},\quad
\begin{pmatrix}
0 \\
s
\end{pmatrix} \mapsto
\begin{pmatrix}
s \\
0
\end{pmatrix}
\end{aligned}
となり,p偏光は(位相反転を伴って)s偏光に,s偏光はp偏光に変わることがわかる.

p偏光s偏光
左:ミラー1にp偏光を入射した場合.右:ミラー1にs偏光を入射した場合.


ジョーンズベクトルとジョーンズ行列を使う方法

上で図示したことを,行列計算で求める.

ここでも,上と同様に,入射電場のp偏光,s偏光成分を

\begin{aligned}
\begin{pmatrix}
p \\
s
\end{pmatrix}
\end{aligned}
と表す.

座標系は,条件

  • 「p偏光方向,s偏光方向,波数ベクトル方向」が右手形をなす
  • 検出器からみたときに,入射電場と出射電場の「p偏光方向,s偏光方向,波数ベクトル方向」が同じになる
  • 各ミラーのs偏光方向は,「ミラーへの入射方向×ミラーからの出射方向(ベクトルの外積)」に平行な方向にとる
を満たすようにとっている(参考文献[1]の取り方).また,ミラーでの反射は簡単のために「座標変換以外の(ミラー由来の)」位相変化がないとするが,実際には適切な変換行列を採用する必要がある.

以上を整理すると下図になる(※図中に書き込まれた矢印は「電場」ではなく,「座標系」であることに注意).

各位置の座標系と,ベクトルの座標変換.
各位置の座標系と,ベクトルの座標変換.


ミラー1による反射波は

\begin{aligned}
\begin{pmatrix}
-1& 0 \\
0 & 1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
p \\
s
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
-p \\
s
\end{pmatrix}
\end{aligned}
となる(単に座標系の取り方の都合でp偏光の位相が反転している).

ミラー2への入射波は,座標系を$\pi/2$回転させるので,ベクトルは$-\pi/2$回転することになるから,

\begin{aligned}
\begin{pmatrix}
0& 1 \\
-1 & 0
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
-p \\
s
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
s \\
p
\end{pmatrix}
\end{aligned}
となり,ミラー2による反射波は
\begin{aligned}
&
\begin{pmatrix}
-1& 0 \\
0 & 1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
s \\
p
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
-s \\
p
\end{pmatrix}
\end{aligned}
となる.

最終的な座標系では,座標が反転するので(あるいは座標系を$\pi$回転させるため,ベクトルは$-\pi$回転することになるので),

\begin{aligned}
&
\begin{pmatrix}
-1& 0 \\
0 & -1
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
-s \\
p
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
s \\
-p
\end{pmatrix}
\end{aligned}
となる.

これは,上で図にp偏光とs偏光の正方向を書き込んで追跡した結果と整合している.

補足:ミラー間の座標回転角度の求め方

上では「ミラー1からの出射波の座標系」と「ミラー2への入射波の座標系」は図示によって簡単にわかってしまった.しかし,参考文献[1]のコーナーキューブの計算のように,図示が難しく計算で求めたい場合がある.

これは,

  • 座標系の取り方は「p偏光方向,s偏光方向,波数ベクトル方向」が右手形をなすと決めている
  • この座標変換で電場の波数ベクトル方向は変わらない
から,2つの座標系でs偏光方向がどれだけ回転したかを求めればよい.

座標系のs偏光方向が$\bm{n}_{1}$から$\bm{n}_{2}$に変換されるとすると,

  • 回転角の絶対値:$\bm{n}_{1}\cdot\bm{n}_{2} = \cos\theta$
  • 回転角の正負:$\bm{n}_{1}\times\bm{n}_{2}$が入射方向と同じなら正,逆向きなら負
とわかる.

例えば,上の例では,$\bm{n}_{1}\cdot\bm{n}_{2} = 0$より$\pm \pi/2$回転で,$\bm{n}_{1}\times\bm{n}_{2}$が入射方向を向くから,座標系が$\pi/2$回転することがわかる.

参考文献