高校物理を微積分で攻略!〜力学の公式の導出方法と使い方〜

高校物理(力学)の公式を微積分でスッキリ理解しませんか?この記事では高校数学で習った微積分を活用し,力学の公式を丸暗記せずに運動方程式から丁寧に導きます.公式を忘れても困らず,物理の本質的な理解が深まります.受験対策にも最適です.

POINT
  • 微積分を使えば公式を覚えずに済む.
  • 質点の運動に関する公式は,運動方程式から自然に導かれる.

高校物理で学ぶ多くの公式は,実は微積分を使うことで自然に導けます.重要なのは,公式ではなく運動方程式をしっかり理解することです.

この記事では,特に,「加速度」「速度」「等速直線運動」「斜方投射」など,高校物理(力学)の重要なトピックを微積分の視点で詳しく説明しています.公式を導く手順をマスターすれば,入試の物理問題でも焦らずに対応できます.

記法

まずは,この記事で使う記号について決めておきます.

時間微分

物理では,時間微分を点で表す習慣があります.例えば,
\begin{aligned}
\dot{x}(t)=\frac{\mathrm{d} x}{\mathrm{d}t}(t),\quad
\ddot{x}(t)=\frac{\mathrm{d}^2 x}{\mathrm{d}t^2}(t)
\end{aligned}
のように,1階微分なら点1個,2階微分なら点2個で表現します.これらは,「エックス・ドット」,「エックス・ツードット」と呼ぶ事が多いです.点が多くなりすぎると見にくいのですが,3階微分くらいまでは使われます.

ここで,$x(t)$が運動する物体の「位置」を表すとすれば,$\dot{x}(t)$は「速度」を表し,$\ddot{x}(t)$は「加速度」を表すことになります.

ベクトル

高校の教科書では,ベクトルを$\vec{x}$と「文字の上に矢印を付けて」表すことになっています.しかし,一般には$\boldsymbol{x}$と「太字」でベクトルを表したり,文脈で分かる場合には$x$と「何も修飾しないで」表したりします.この記事では,ベクトルは「太字」
\begin{aligned}
\boldsymbol{x}
\end{aligned}
で表すことにします(上に矢印をつけて表すと,時間微分の「ドット」と被ってしまって書きにくいため).

微積分を使って高校物理(力学)の公式を導こう

質点の運動は,運動方程式から決定されます(剛体になると話は別で,これはそのうち追記予定です).

運動方程式を微分方程式として捉える

高校物理では運動方程式は$ma=F$と表しますが,$a$は加速度のことなので$a=\ddot{x}$です.したがって,運動方程式は
運動方程式
\begin{aligned}
m\ddot{ \boldsymbol{x}}(t) = \boldsymbol{F}
\end{aligned}
と書くことができます.ここで,$\boldsymbol{x}$と$ \boldsymbol{F}$はベクトルです.つまり,
\begin{aligned}
\boldsymbol{x}(t) & =
\left(
\begin{array}{c}
x(t)\\
y(t)\\
z(t)
\end{array}
\right), \\
\ddot{ \boldsymbol{x}}(t) &=
\left(
\begin{array}{c}
\ddot{x}(t)\\
\ddot{y}(t)\\
\ddot{z}(t)
\end{array}
\right), \\
\boldsymbol{F}&=
\left(
\begin{array}{c}
F_x\\
F_y\\
F_z
\end{array}
\right) ,\cdots
\end{aligned}
といった具合です.

等速度運動と力の釣り合いの関係を微積分から導出する方法

物体が等速度運動するのは,物体に働く力が釣り合っているときです.逆に,力が釣り合っているならば,物体は必ず等速度運動をします.これらは運動方程式から微積分で自然に導けます.

まず,「物体が等速度運動をする$\Rightarrow$物体に働く力は釣り合う」を導きます.

物体が等速度運動をすることは,物体が動かない(速度ゼロ)の場合も含んでいることに注意しましょう.$\dot{ \boldsymbol{x} }(t)$が定数であることから,$\ddot{ \boldsymbol{x} }(t) = \boldsymbol{0}$です.したがって,運動方程式は

\begin{aligned}
\boldsymbol{0}
=\boldsymbol{F}
\end{aligned}
です.これは,物体に働く力が釣り合っているを意味しています.


次に,上の逆である「物体に働く力が釣り合う$\Rightarrow$物体が等速度運動をする」を導きます.

$\boldsymbol{F}=\boldsymbol{0}$のとき,運動方程式は

\begin{aligned}
m\ddot{ \boldsymbol{x}}(t) = \boldsymbol{0}
\end{aligned}
なので,$\ddot{ \boldsymbol{x}}(t) = \boldsymbol{0}$となります.両辺を時間で積分すれば$\boldsymbol{C}_1$を任意定数(ベクトル)として
\begin{aligned}
\boldsymbol{0}
&= \int_{t_0}^t \ddot{ \boldsymbol{x}}(t^\prime) \,\mathrm{d}t^\prime \\
&= \int_{t_0}^t \frac{\mathrm{d} \dot{ \boldsymbol{x}}}{\mathrm{d}t^\prime}(t^\prime) \,\mathrm{d}t^\prime \\
&= \dot{ \boldsymbol{x}}(t) - \dot{ \boldsymbol{x}}(t_0).
\end{aligned}
したがって,$\boldsymbol{v}_0=\dot{ \boldsymbol{x}}(t_0)$と書くことにすれば
\begin{aligned}
\dot{ \boldsymbol{x}}(t) = \boldsymbol{v}_0
\end{aligned}
となります.つまり,等速度運動することがわかりました.


もう一度$t$で積分すれば,$\boldsymbol{x}$を求めることができます.つまり,

  • 左辺:$\displaystyle \int_{t_0}^t \dot{ \boldsymbol{x}}(t^\prime) \,\mathrm{d}t^\prime = \boldsymbol{x}(t) - \boldsymbol{x}(t_0)$
  • 右辺:$\displaystyle \int_{t_0}^t \boldsymbol{v}_0 \,\mathrm{d}t^\prime = \boldsymbol{v}_0 (t-t_0)$

なので,$\boldsymbol{x}_0=\boldsymbol{x}(t_0)$と書くことにすれば

\begin{aligned}
\boldsymbol{x}(t) = \boldsymbol{x}_0 + \boldsymbol{v}_0 (t-t_0)
\end{aligned}
となります.等速直線運動しているので,位置が単位時間あたり$\boldsymbol{v}_0$変化するという当然の結果が得られました.

微積分による一様な重力場(斜方投射)の公式導出方法

物体に一様な重力が働く状況を考察します.例えば,斜方投射の問題で扱われます.

微積分で理解する高校物理の斜方投射(一様な重力場のイメージ図)
一様な重力場の図(微積分で導く斜方投射の問題).
重力加速度ベクトル$\displaystyle \boldsymbol{g} =\left(0,0,-g\right)$を用いる.

運動方程式は

\begin{aligned}
m \ddot{ \boldsymbol{x} }(t) = m\boldsymbol{g}
\end{aligned}
です.この場合には,一定の加速度$\ddot{ \boldsymbol{x} }(t) = \boldsymbol{g}$がかかることになります.

時間積分により速度を求めると,

\begin{aligned}
\int_{t_0}^t \ddot{ \boldsymbol{x} }(t^\prime)\,\mathrm{d}t^\prime
= \int_{t_0}^t \boldsymbol{g}\,\mathrm{d}t^\prime
\end{aligned}
から
\begin{aligned}
\dot{ \boldsymbol{x}}(t) - \dot{ \boldsymbol{x}}(t_0)
= \boldsymbol{g} (t-t_0)
\end{aligned}
です.これまで同様に,$\boldsymbol{v}_0=\dot{ \boldsymbol{x}}(t_0)$と書くことにすれば
\begin{aligned}
\dot{ \boldsymbol{x}}(t)
= \boldsymbol{v}_0 + \boldsymbol{g} (t-t_0)
\end{aligned}
となります.

もう一度積分すれば,

\begin{aligned}
\boldsymbol{x}(t) - \boldsymbol{x}(t_0)
= \boldsymbol{v}_0(t-t_0) + \frac{1}{2}\boldsymbol{g} (t-t_0)^2
\end{aligned}
となる.$\boldsymbol{x}_0=\boldsymbol{x}(t_0)$と書くことにすれば
\begin{aligned}
\boldsymbol{x}(t)
= \boldsymbol{x}_0 + \boldsymbol{v}_0(t-t_0) + \frac{1}{2}\boldsymbol{g} (t-t_0)^2
\end{aligned}
です.

これら2つは,高校物理では公式として覚えますが,運動方程式さえ知っていれば簡単に計算できるのです.

よくある質問|高校物理(力学)と微積分の活用法

高校物理の力学で微積分を使うメリットは?

高校物理(力学)の公式を丸暗記せず,運動方程式から自然に導出できるようになります.公式を忘れても自力で導けるため,物理の理解が深まり,受験対策としても有効です.

微積分が苦手でも高校物理を理解できますか?

高校数学で習った基本的な微積分の知識で十分です.この記事を読めば,微積分が苦手でも高校物理を本質から理解できます.

入試の物理では公式の丸暗記が必要ですか?

覚えていたほうが解答が早くなりますが,運動方程式を理解し微積分を使えると,初見の問題にも対応できます.また,大学物理を学ぶ際にも戸惑うことなく移行できます.


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