示量性と示強性(熱力学)

POINT

  • 示量性と示強性の定義.
  • 示量性と示強性を用いた計算テクニック.
  • 示量性関数の示量変数による導関数は示強変数になる.

記法は文献[1]に従います.
【関連記事】

示量性

示量性 (extensive property)
系の大きさを$\lambda$倍したときに,$\lambda$倍される性質を「示量性」と呼ぶ.

示量変数 (extensive variable)
示量性をもつ変数を「示量変数」と呼ぶ.
【例】体積,物質量

さらに,よく使う性質として次があります:

示量性関数の性質
ある関数$f$が「示量性」をもつとする.このとき,全ての示量変数をまとめて$X$と表し,その他の変数を$I$で表すと
\begin{aligned}
f(I;\lambda X)=\lambda f(I; X)
\end{aligned}
が成り立つ.
【証明】
系を$\lambda$倍するとき,
  • 示量性変数$X$は$\lambda X$となる.
  • 示量性を持つ関数$f(I; X)$は$\lambda f(I; X)$となる.
ことからわかる.//

示強性

示強性 (intensive property)
系の大きさを$\lambda$倍したときに,値を変えない性質を「示強性」と呼ぶ.

示強変数 (intensive variable)
示強性をもつ変数を「示強変数」と呼ぶ.
【例】温度,圧力

テクニック

いくつか性質を示す中で,よく使う計算テクニックが現れます.

まずは,示量性関数が「1つの」示量性変数で表せる場合を考えます.

示量性関数の示量性変数による微分
示量性を持つ関数$f(I; X)$が,変数として1つの示量変数$X$と示強変数$I$に依存する場合を考える.このとき,$f(I;X)=g(I)X$と表すことができる.
【補足】これより
\begin{aligned}
g(I)
=\frac{\partial f}{\partial X}(I;X)
=\frac{f(I;X)}{X}
\end{aligned}
がわかる.つまり,$f$の$X$による偏導関数と$f/X$は示強性の関数である.
【証明】
ある示量変数の値$X_0$を固定する.このとき,関数の示量性から
\begin{aligned}
f(I;X)= \frac{X}{X_0}f(I;X_0)
\end{aligned}
と表すことができる.よって,$g(I)=f(I;X_0)/X_0$とすれば良い.//

【例】
1成分系のGibbsの自由エネルギー$G[T,p;N]$は示量性関数であるから,示量変数である物質量$N$に対して

\begin{aligned}
\frac{G[T,p;N]}{N}=\frac{\partial G}{\partial N}[T,p;N]
\end{aligned}
が成り立つ.これは,化学ポテンシャル$\mu(T,p)$に等しい.


示量性変数が増えた場合にも,次のように拡張できます.

示量性関数の示量性変数による微分
示量性を持つ関数$f(I; X)$が,変数として複数の示量変数$X=(X_1,X_2,\cdots X_n)$と示強変数$I$に依存する場合を考える.このとき,
  1. 任意の$i$に対して$\dfrac{\partial f}{\partial X_i}$は示強性関数.
  2. $\displaystyle f(I;X)=\sum_{k=1}^n \frac{\partial f}{\partial X_k}(I; X) \cdot X_k$.
であることがわかる.
【証明】
関数の示量性から
\begin{aligned}
f(I;\lambda X)=\lambda f(I; X)
\end{aligned}
が成り立つ.両辺を$X_i$で微分すると
\begin{aligned}
\frac{\partial f}{\partial X_i}(I; X)\Biggl|_{X=\lambda X} \cdot\lambda
=\lambda \frac{\partial f}{\partial X_i} (I; X)
\end{aligned}
より
\begin{aligned}
\frac{\partial f}{\partial X_i}(I; X)\Biggl|_{X=\lambda X}
=\frac{\partial f}{\partial X_i} (I; X)
\end{aligned}
となる.つまり,偏導関数
\begin{aligned}
\frac{\partial f}{\partial X_i}
\end{aligned}
は示強性関数である.

また,両辺を$\lambda$で微分した

\begin{aligned}
\sum_{i=1}^n \frac{\partial f}{\partial X_i}(I; X)\Biggl|_{X=\lambda X} \cdot X_i
=f(I; X)
\end{aligned}
の$\lambda=1$における値は
\begin{aligned}
\sum_{i=1}^n \frac{\partial f}{\partial X_i}(I; X) \cdot X_i
=f(I; X)
\end{aligned}
となる.//

【例】
示量性関数であるHelmholtzの自由エネルギーを示量変数$V$で偏微分すると,示強性の関数である圧力

\begin{aligned}
p(T;V,N)=-\frac{\partial F}{\partial V}[T;V,N]
\end{aligned}
が得られる.

参考文献 / 記事

[1]熱力学―現代的な視点から