【読書メモ】熱力学(田崎晴明)

自分が理解しやすいように言い換えたり,解釈を加えたりしたメモです(重要事実の列挙,ロジックの補完,気になった計算など).

【関連記事】

1. 熱力学とは何か

  • 熱力学は,マクロの世界で完結できる.
  • 熱力学の主役は,「1. 仕事」と「2. 仕事をもとに定義される熱力学関数」である(「熱」ではない).
  • 熱力学は平衡状態から平衡状態への移行過程が非平衡でも厳密に適用できるが,現在の統計物理学はそうはいかない.

【普遍性に関する解釈(咀嚼)】

  • 物事を上手く抽象化する(ある軸で見る)と,それらをまとめて表現できる法則が見つかることがある.これを,「普遍的な構造」という.
  • 普遍的な構造(それだけで閉じた理論)と,閉じた理論同士の関係(他の普遍的な構造や,論理で結び付く)こそが,基礎科学と呼ぶべきもの.
  • 還元主義は「閉じた1つの理論が全てを包含する」という考え方.他の閉じているように見える理論は,全てを包含する理論の近似とみなす(閉じているとはみなさない).

2. 平衡状態の記述

  • 示量変数は,「1. 力学的な方法で変えられるもの(ex. 体積)」と,「2. それ以外(ex. 物質量)」に分類できる.
  • 熱力学で必要な情報は,示量変数への力学的操作を通じて得られる仕事だけである.したがって,示量変数を動かさない操作(壁の挿入・撤去)では,系は外界に仕事をしない(情報は得られない).
  • 状態とは,「示量変数へのあらゆる力学的操作(からなる集合)」から「操作で外界が得る仕事」へのmappingである.つまり,ある系が同じ状態にあるとは,この対応が全て等しいことを言う.
  • 平衡状態は,「1. 環境の温度」と「2. 示量変数の組」で完全に決定される(十分多くの示量変数を集めれば,上で定義した「状態」が決定できるという要請).
  • どんな環境下においても,最終的に到達する平衡状態が自身の初期状態だけで決まる系を「断熱系」という.

3. 等温操作とHelmholtzの自由エネルギー

概要

  • 【要請】等温サイクルが外界に行う仕事≦0(Kelvinの原理)
  • 等温準静過程が外界に行う仕事は途中過程によらない
    • Kelvinの原理による証明:等温準静サイクルが外界に行う仕事=0(結果3.2)からわかる.
    • 最大仕事の原理による証明:任意の等温準静操作=最大仕事がこれを意味している.
  • 最大仕事=等温準静過程が外界に行う仕事.上の事実から,はじめと終わりの示量変数(=平衡状態)を指定すれば決まる.
  • Helmholtzの自由エネルギーは,最大仕事のポテンシャルエネルギーに相当するもの(はじめと終わりの示量変数(=平衡状態)で最大仕事が決まることからwell-defined).
  • Helmholtzの自由エネルギーは示量的な状態量.
  • 上のHelmholtzの自由エネルギーの定義から,圧力$p$とは
    \begin{aligned}F[T;V,...]=\int^V -p(T;V^\prime,...)\,\mathrm{d} V^\prime \end{aligned}
    という関係で結ばれる.よって,
    \begin{aligned}p=-\frac{\partial F}{\partial V}\end{aligned}
    である.
  • 圧力は示強的な状態量.
  • 圧力$p$を$T,V,N$の関数として表したものを状態方程式という.状態方程式は熱力学の枠外で決定される.

等温操作と断熱壁

Kelvinの原理が断熱壁を用いた操作に対しても適用できることが重要.特に,Carnotの定理を示す際にポイントとなる.結局,「温度$T$の環境の中にあれば,断熱壁を用いても等温操作」であり,「途中が平衡状態であれば(断熱系の平衡状態を含んでいても)準静操作」ということがポイント.環境は温度$T$の1種類だけが必要という点が「広義の等温操作」とは異なる.


次の要請

  1. 「等温操作」とは,最初と最後の系が(断熱壁を介さずに)温度$T$の環境に置かれている操作.途中で系の一部や全部を断熱壁で囲んでも良い.
  2. 「等温準静操作」は,操作の途中で系が平衡状態にある操作.
    • ここで,「平衡状態」は「等温環境での平衡状態」と「断熱系の平衡状態」のどちらもあり得ることに注意.つまり,等温準静操作」の途中ではここでは未定義の「断熱準静操作」が含まれ得る.
  3. 断熱壁で覆う操作はいつでも準静的.
  4. 断熱壁を取り去る操作が準静的⇔「系の温度=環境の温度」.
を念頭に置くと,次の操作は(実質,断熱準静操作だが)「等温準静操作」となる:
  1. 温度$T$の環境にある系を断熱壁で覆う
  2. 断熱準静操作をいくつかおこない,温度を$T$にする
  3. 断熱壁を取り外す
これは,Carnotの定理の証明で使われる.

準静的操作を逆向きにたどれること

うまく説明できない.要請に近いと思う.(むしろ,逆向きに辿れることから,準静操作を特徴づけられないか?)

ある準静的操作の逆向きの準静的操作があることは,

  1. 「着目している示量変数は自由に操作できる」と仮定されている.したがって,示量変数を逆向きに変化させることも可能.
  2. 示量変数を変化させることさえできれば,それを準静的に行うことも可能(示量変数をゆっくり時間変化させればよい)と仮定されている.
からわかる.

さらに,準静的操作は「極限的操作」なので,もとの準静的操作を逆にたどれば準静的操作になる(「逆向きにたどるときはもっとゆっくり操作することが必要」などとはならない.すでに極限を取っているため.).

【注】2章で「等温環境での平衡状態は,環境の温度と示量変数の組で完全に決定される」としているので,(断熱壁を用いない場合)温度を一定に保ったまま示量変数を逆向きに操作することが,「状態を逆向きにたどっている」ことに相当する.途中で断熱壁を用いている場合(断熱準静操作)については,後で出てくるように温度が示量変数の連続関数となる(一価性/経路に依存しないことも仮定?)ことから,やはり示量変数を逆向きに操作することが「状態を逆向きにたどっている」ことに相当する.

粒子のする仕事

結局
\begin{aligned}
W&=\int_{\boldsymbol{r}_1\to\boldsymbol{r}_2} (-\boldsymbol{F})\cdot\mathrm{d}\boldsymbol{r} \\
&=\int_{t_1}^{t_2} (-\boldsymbol{F})\cdot\frac{\mathrm{d}\boldsymbol{r}}{\mathrm{d}t}\,\mathrm{d}t
\end{aligned}
の計算をしている.

Helmholtzの自由エネルギー

Helmholtzの自由エネルギーは基準点でゼロ:
\begin{aligned}
F[T;X_0(T)]=0
\end{aligned}
【証明①】
定義式(3.23)とKelvinの原理から
\begin{aligned}
F[T;X_0(T)]=W_{\mathrm{max}}(T;X_0(T)\rightarrow X_0(T)) \leq 0
\end{aligned}
である.何もしない操作は等温準静サイクルであるから,結果3.2から$W_{\mathrm{max}}(T;X_0(T)\rightarrow X_0(T))=0$がわかる.//

【証明②】
式(3.27)

\begin{aligned}
F[T;X_1] - F[T;X_2]
=W_{\mathrm{max}}(T;X_1\rightarrow X_2)
\end{aligned}
において$X_1=X$,$X_2=X_0(T)$とすれば
\begin{aligned}
F[T;X] - F[T;X_0(T)]
&=W_{\mathrm{max}}(T;X\rightarrow X_0(T)) \\
&=F[T;X]\quad(\text{定義式(3.23)})
\end{aligned}
である.よって,$F[T;X_0(T)]=0$.//


演習問題

【3.1】(b)と(c)では重心位置が異なるので,(a)→(b)で外界にする仕事<(c)→(d)で系にする仕事.

4. 断熱操作とエネルギー

概要

  • 断熱操作では,示量変数は自由に操作できるが,温度は系が操作に応じて自動的に決める.
  • 【要請】断熱準静操作では,温度は示量変数の連続関数として表せる.
  • 【要請】示量変数を固定したまま,温度を任意に上昇させる断熱操作が存在する.この操作で,系は外界に負の仕事をする.
  • 【要請(実験事実)】エネルギー保存則:断熱操作で系が外界にする仕事(断熱仕事)は,操作のはじめと最後の平衡状態だけ決まる.
  • 内部エネルギーは,断熱仕事のポテンシャルエネルギーに相当する(断熱仕事の存在と,エネルギー保存則からwell-defined).
  • 内部エネルギーは示量的な状態量.
  • $T_1 < T_2 \Rightarrow U(T_1;X) < U(T_2;X)$

エネルギー保存則の表式

\begin{aligned}
W_\mathrm{ad}\bigl( (T;X) \to (T^\prime;X^\prime) \bigr)
&=U(T;X) - U(T^\prime;X^\prime)
\end{aligned}

【導出】
$\textcolor{red}{(T;X)} \overset{\mathrm{a}}{\to} (T^\prime;X^\prime)$は可能であることがわかっている.

1. $(T^*;X^*) \overset{\mathrm{a}}{\to} \textcolor{red}{(T;X)}$が成り立つ場合
2. $\textcolor{red}{(T;X)} \overset{\mathrm{a}}{\to} (T^*;X^*)$が成り立つ場合
 2-1. $(T^*;X^*) \overset{\mathrm{a}}{\to} (T^\prime;X^\prime)$が成り立つ場合
 2-2. $(T^\prime;X^\prime) \overset{\mathrm{a}}{\to} (T^*;X^*)$が成り立つ場合
で分けて考えれば良い.//

【補足】
状態空間で$U$が微分可能なら

\begin{aligned}
&W_\mathrm{ad}\bigl( (T;X) \to (T^\prime;X^\prime) \bigr) \\
&=U(T;X) - U(T^\prime;X^\prime) \\
&=-\int_{(T;X) \to (T^\prime;X^\prime)}
\boldsymbol{\nabla} U\cdot \mathrm{d}\boldsymbol{x} \\
&=-\int_{(T;X) \to (T^\prime;X^\prime)} \mathrm{d} U
\end{aligned}
と,状態空間での線積分で表せる.ここで,
\begin{aligned}
&\boldsymbol{\nabla} U
=\begin{pmatrix}
\dfrac{\partial U}{\partial T} \\[1em]
\dfrac{\partial U}{\partial X}
\end{pmatrix} \\
&\int_{C}\boldsymbol{\nabla} U\cdot \mathrm{d}\boldsymbol{x}
=\int \biggl[\frac{\partial U}{\partial T} \frac{\mathrm{d}T}{\mathrm{d}s}
+\frac{\partial U}{\partial X} \frac{\mathrm{d}X}{\mathrm{d}s}\biggr]\,\mathrm{d}s
\end{aligned}
である($s$は曲線$C$のパラメータ).

Poissonの関係式

$\Delta$を使わずに議論してみる.

断熱準静操作$(T;V,N) \overset{\mathrm{aq}}{\to} (T^\prime;V^\prime,N^\prime)$で系が外界にする仕事は

\begin{aligned}
W&=\int_{V}^{V^\prime} p(T(\tilde{V});\tilde{V},N) \,\mathrm{d}\tilde{V} \\
&=NR\int_{V}^{V^\prime}\frac{T(\tilde{V})}{\tilde{V}}\,\mathrm{d}\tilde{V} \\
W&=-\biggl[
\int_T^{T^{\prime}} \frac{\partial U}{\partial \tilde{T}}(\tilde{T};V,N) \,\mathrm{d}\tilde{T} \\
&\qquad\qquad
+ \int_V^{V^{\prime}} \frac{\partial U}{\partial \tilde{V}}(T^{\prime};V,N) \,\mathrm{d}\tilde{V}\biggr] \\
&=cNR(T-T^\prime)
\end{aligned}
の2通りで表せる.よって,
\begin{aligned}
T&=T^\prime + \frac{1}{c} \int_{V}^{V^\prime}\frac{T(\tilde{V})}{\tilde{V}}\,\mathrm{d}\tilde{V}
\end{aligned}
であるから,
\begin{aligned}
\frac{\mathrm{d}T}{\mathrm{d}V}(V)
&=-\frac{T(V)}{cV}
\end{aligned}
がわかる.以下,本文と同じ.//

5. 熱とCarnotの定理

概要

  • 等温操作において,「環境から受け取った熱」=「内部エネルギーの増分」ー「系が外界から受け取った仕事」と定義する.つまり,熱は仕事で説明ができないエネルギーである.
  • 熱は状態量ではない(平衡状態を定めても,値が定まらない).
  • Carnotサイクルは,温度が$T$, $T^\prime$の2つの環境での等温準静操作と,$T\leftrightarrow T^\prime$間をうつる2つの断熱準静操作からなる.

エネルギー移動の分類

エネルギー移動は2種類に分類できる.
観測 熱力学の立場 分子論の立場
1 可能 力学的仕事 マクロのスケール
2 不可能 ミクロのスケール

Carnotの定理

Carnotサイクルと逆Carnotサイクルを組み合わせる(※一部置き換える)と,等温準静サイクルを作ることができる.これにより,Kelvinの原理が適用できる.

6. エントロピー

概要

  • $(T_1;X_1) \overset{\mathrm{aq}}{\leftrightarrow} (T_2;X_2)\Leftrightarrow S(T_1;X_1)=S(T_2;X_2).$
  • $T_1 < T_2 \Rightarrow S(T_1;X) < S(T_2;X)\quad(\text{for all } X).$
  • \begin{aligned}C_\mathrm{V}(T;X)=\frac{\partial U(T;X)}{\partial T}=T\frac{\partial S(T;X)}{\partial T}\end{aligned}
  • 断熱操作の可逆・不可逆性は,始・終状態だけで定義され,途中操作については指定しない.
  • 【結果-エントロピー原理】$(T_1;X_1) \overset{\mathrm{a}}{\to} (T_2;X_2)$が可能$\Leftrightarrow S(T_1;X_1) \leq S(T_2;X_2)$.
  • エントロピーが絡む議論では,「1. エントロピーは平衡状態でしか定義されていないこと」,「2. 種々の性質は断熱操作のもとで成り立つものであること」に注意.

基準点のとり方

基準点$(T^*;X^*)$と断熱操作で結ばれる任意の状態で$S(T;X)=S^*$とできること.

【解説】
基準点$(T^*;X^*)$と断熱準静操作$(T^*;X^*) \overset{\mathrm{aq}}{\leftrightarrow} (T;X)$で結ばれる,任意の状態$(T;X)$を1つ固定する.

いま,

\begin{aligned}
U(T;X)
&=W_\mathrm{ad} \bigl((T;X)\to(T^*;X^*)\bigr)\\
&=-W_\mathrm{ad} \bigl((T^*;X^*)\to (T;X)\bigr)
\end{aligned}
であるから,
\begin{aligned}
S^*
&=S(T;X) \\
&=\frac{U(T;X)-F[T;X]}{T} \\
&=\frac{U(T;X) - W_\mathrm{max}\bigl(T;X\to X_0(T)\bigr) }{T}
\end{aligned}
が成り立つようにするには,左辺を満たすような$X_0(T)$をとればよい(とれることは仮定).

このとき,断熱準静操作$(T^*;X^*) \overset{\mathrm{aq}}{\leftrightarrow} (T^\prime;X^\prime)$で結ばれる任意の状態$(T^\prime;X^\prime)$を考えると,式(6.6)から

\begin{aligned}
S(T^\prime;X^\prime) - S(T;X)
&=S(T^*;X^*) - S(T^*;X^*) \\
&=0
\end{aligned}
となる.よって,$S(T^\prime;X^\prime)=S(T;X)=S^*$となっている.//

7. Helmholtzの自由エネルギーと変分原理

概要

  • 【変分原理の不等式】温度$T$の環境下で2つの平衡状態$(T;X_{1})$と$(T;X_{2})$が,何らかの等温操作により平衡状態$(T;X_{1}+X_{2})$に達する場合を考える.このとき
    \begin{aligned}F[T;X_{1}+X_{2}] \leq F[T;X_{1}]+F[T;X_{2}] \end{aligned}
    が成り立つ.
  • 【変分原理】温度$T$の環境下で2つの平衡状態$(T;X_{1})$と$(T;X_{2})$が,$X_{1}+X_{2}=\tilde{X}_{1} + \tilde{X}_{2}$の制限のついた何らかの等温操作により平衡状態$(T;\tilde{X}_{1})$と$(T;\tilde{X}_{2})$に達する場合を考える.このとき
    \begin{aligned}&F[T;\tilde{X}_{1}]+F[T;\tilde{X}_{2}] \\ &= \min_{\substack{X_{1}+X_{2} \\[0.2em] =\tilde{X}_{1} + \tilde{X}_{2}}} \Bigl\{ F[T;X_{1}]+F[T;X_{2}] \Bigr\} \end{aligned}
    が成り立つ(大域的なつり合い条件).
  • 【つり合い】2つの平衡状態$(T;\tilde{X}_{1})$と$(T;\tilde{X}_{2})$がつり合っているとは,「温度$T$の環境下で①2つの状態を薄い壁を隔てて接触させ,②壁を取り除いて平衡状態$(T;\tilde{X}_{1}+\tilde{X}_{2})$になるまで待ち,③再度,薄い壁を挿入して分離する操作」によって,再び平衡状態$(T;\tilde{X}_{1})$と$(T;\tilde{X}_{2})$になることを言う.このとき,上の大域的なつり合い条件が成立している.
  • 【局所的なつり合い条件】2つの平衡状態$(T;\tilde{X}_{1})$と$(T;\tilde{X}_{2})$が大域的なつり合い条件を満たすとき,
    \begin{aligned} \frac{\partial }{\partial X_{1}}\Bigl\{ F[T;X_{1}] +F[T;(\tilde{X}_{1}+\tilde{X}_{2}) - X_{1}] \Bigr\}\biggl|_{X_{1}=\tilde{X}_{1}}=0 \end{aligned}
  • が成り立つ.これを局所的なつり合い条件と呼ぶ.
  • 【局所的なつり合い条件$\Leftrightarrow$大域的なつり合い条件】上の逆も成り立つ.
  • 上の事実から,熱力学は準安定状態(例えば,過飽和や過冷却)を扱えない.

相転移での化学ポテンシャル

式(7.8)と式(3.33)から得られる
\begin{aligned}
&\mu(T;V,N) \\
&=\frac{1}{N} \Biggl[ -\int_{v(T)N}^V p(T;V^\prime,N)\,\mathrm{d}V^\prime + Vp(T;V,N) \Biggr]
\end{aligned}
または式(7.8)と(3.31)から得られる
\begin{aligned}
&\frac{\partial \mu(T;V,N)}{\partial V} \\
&=\frac{1}{N} \Biggl[- p(T;V,N) + p(T;V,N) + V\frac{\partial p(T;V,N)}{\partial V} \Biggr] \\
&=\frac{V}{N}\frac{\partial p(T;V,N)}{\partial V}
\end{aligned}
を考えれば,化学ポテンシャルの図が書ける.

特に後者からは,$p$の傾きから$\mu$の傾きがすぐにわかる.

気相と液相の共存

$p,\mu$が示強的であることから,
\begin{aligned}
&p(T;V_{1},N_{1})=p(T;V_{2},N_{2}) \\
&\Leftrightarrow p(T;\textcolor{red}{N}(V_{1}/N_{1}),\textcolor{red}{N})
=p(T;\textcolor{red}{N}(V_{2}/N_{2}),\textcolor{red}{N}) \\
&\\
&\mu(T;V_1,N_1)=\mu(T;V_2,N_2) \\
&\Leftrightarrow \mu(T;\textcolor{red}{N}(V_{1}/N_{1}),\textcolor{red}{N})
=\mu(T;\textcolor{red}{N}(V_{2}/N_{2}),\textcolor{red}{N})
\end{aligned}
であることがポイント.これにより,$\textcolor{red}{N}$を一定にしている図7.4,図7.5を使って議論ができる.

蒸発のエンタルピーの測定

$W_\mathrm{el}=Q_\mathrm{max}\bigl(T;(V_\mathrm{L}(T;N),N)\to (V_\mathrm{G}(T;N),N) \bigr)$となることを確かめる(脚注27).
【証明】
$X_1=(V_\mathrm{L}(T;N),N)$,$X_2=(V_\mathrm{G}(T;N),N)$とおく.

等温準静操作(7.50)

\begin{aligned}
(T;X_1)\overset{\mathrm{iq}}{\to} (T;X_2)
\end{aligned}
において
\begin{aligned}
&U(T;X_1)-U(T;X_2)\\
&=W_\mathrm{max}(T;X_1\to X_2) - Q_\mathrm{max}(T;X_1\to X_2) \\
&=p_\mathrm{v}(T)\bigl[V_\mathrm{G}(T;N) - V_\mathrm{L}(T;N) \bigr] \\
&\qquad\qquad\qquad\qquad\qquad
- Q_\mathrm{max}(T;X_1\to X_2)
\end{aligned}
であった((5.6) or (7.52)).

一方で,今考えている断熱操作ではエネルギー保存則(4.20)から

\begin{aligned}
&U(T;X_1)-U(T;X_2) \\
&=W_\mathrm{ad} \bigl((T;X_1) \to (T;X_2) \bigr)\\
&=p_\mathrm{v}(T)\bigl[V_\mathrm{G}(T;N) - V_\mathrm{L}(T;N) \bigr] - W_\mathrm{el}
\end{aligned}
である.

以上2式から,$W_\mathrm{el}=Q_\mathrm{max}(T;X_1\to X_2)$となる.//

Clapeyronの関係

$V_\mathrm{L,G}$は$T,N$の関数であることに注意.これは,微分計算に効いてくる.例えば
\begin{aligned}
&\frac{\mathrm{d} F[T;V_\mathrm{L}(T;N),N]}{\mathrm{d} T} \\
&=\frac{\partial F[T;V,N]}{\partial T}\Biggl|_{V=V_\mathrm{L}(T;N)} \\
&\qquad + \frac{\partial F[T;V,N]}{\partial V}\Biggl|_{V=V_\mathrm{L}(T;N)} \cdot \frac{\partial V_\mathrm{L}(T;N)}{\partial T} \\
&=-S\bigl(T;V_\mathrm{L}(T;N),N\bigr) \\
&\qquad - p\bigl(T;V_\mathrm{L}(T;N),N\bigr)\frac{\partial V_\mathrm{L}(T;N)}{\partial T}
\end{aligned}
となる.

8. Gibbsの自由エネルギー

概要

  • Gibbsの自由エネルギーは
    \begin{aligned} G[T,p;N]=\min_{V} \Bigl\{F[T;V,N]+pV \Bigr\} \end{aligned}
    で定義される.
  • 上の定義で,$(T,p;N)$に対して$V$が一意に定まるときに限り
    \begin{aligned} G[T,p;N]=F[T;V(T,p;N),N]+pV(T,p;N) \end{aligned}
    と表せる.
  • \begin{aligned} F[T;V,N] = \max_{p} \Bigl\{G[T,p;N]-pV \Bigr\} \end{aligned}

変分原理

7-4で導いた変分原理が適用できることが自明ではないので,補足する.

さらに,本文中とは少し考え方を変えて,「力学的な系のHelmholtzの自由エネルギー」を持ち出さないようにする.
議論は7-4に沿った形にする.

【導出】
等温操作

\begin{aligned}
(T;V^{\prime},N) \overset{\mathrm{i}}{\to} (T;V,N)
\end{aligned}
を考える(平衡状態で圧力$p$は一定:$mg=pA$).このとき,
\begin{aligned}
W_{\mathrm{max}} \Bigl(T;(V^{\prime},N) \to (V,N) \Bigr)
&\geq \int_{V^{\prime}/A}^{V/A} mg \, \mathrm{d}z \\
&= mgV/A - mgV^{\prime}/A
\end{aligned}
であるから
\begin{aligned}
F[T;V^{\prime},N] - F[T;V,N]
&\geq pV - pV^{\prime}.
\end{aligned}
よって,
\begin{aligned}
F[T;V,N] + pV
\leq F[T;V^{\prime},N] + pV^{\prime}
\end{aligned}
が得られる.

9. 多成分の熱力学

計算メモ

【式 (9.3)】
\begin{aligned}
&W_\mathrm{mix}(T;V,N_1,N_2) \\
&=W_\mathrm{max}\bigl(T;\{(V,N_1,0),(V,0,N_2)\}\to (V,N_1,N_2) \bigr) \\
&=F[T;\{(V,N_1,0),(V,0,N_2)\}] - F[T;(V,N_1,N_2)] \\
&=F[T;V,N_1]+F[T;V,N_2] - F[T;(V,N_1,N_2)]
\end{aligned}

Le Chatelierの原理

式(9.83)($\Delta \xi > 0$と仮定されている)は
$\xi \rightarrow \xi+\Delta \xi$ $\xi \rightarrow \xi-\Delta \xi$
1 $\Delta Q > 0$ (吸熱) $\Delta Q < 0$ (発熱)
2 $\Delta Q < 0$ (発熱) $\Delta Q > 0$ (吸熱)
の2つの場合が考えられる.

温度を$\Delta T$変化させた場合

\begin{aligned}
\tilde{\xi}(T+\Delta T,p)
=\tilde{\xi}(T,p)
+\frac{\partial \tilde{\xi}}{\partial T}(T,p) \Delta T
\end{aligned}
を考える.上表のそれぞれの場合において
$\Delta T > 0$ $\Delta T < 0$
1 $\tilde{\xi}(T+\Delta T,p) - \tilde{\xi}(T,p) > 0$
$\Rightarrow$ 吸熱
$\tilde{\xi}(T+\Delta T,p) - \tilde{\xi}(T,p) < 0$
$\Rightarrow$発熱
2 $\tilde{\xi}(T+\Delta T,p) - \tilde{\xi}(T,p) < 0$
$\Rightarrow$ 吸熱
$\tilde{\xi}(T+\Delta T,p) - \tilde{\xi}(T,p) > 0$
$\Rightarrow$発熱
となる.

別な切り口で整理

可能な操作

「操作」とは,示量変数を
  1. 力学的な操作
  2. 薄い壁(仕切り)を挿入する/取り除く操作
  3. 断熱壁で一部を覆う/取り除く操作
のいずれかによって変化させることを指す.示量変数を「力学的に操作」したときだけ,系は外界に仕事をする(注:操作が力学的かどうかは,操作の記号を見ただけではわからない).
共通事項
  • 系を用意した後は物質量$N$を変化させられない(p.123,脚注11).

等温操作
  • 【要請】等温操作$(T;X_1) \overset{\mathrm{i}}{\to} (T;X_2)$が可能なら,等温準静操作$(T;X_1) \overset{\mathrm{iq}}{\to} (T;X_2)$が可能.
  • 【要請】等温準静操作$(T;X_1) \overset{\mathrm{iq}}{\to} (T;X_2)$が可能なら,逆向きの等温準静操作$(T;X_2) \overset{\mathrm{iq}}{\to} (T;X_1)$が可能.

  • 広義の等温操作で,示量変数を動かさないもの$(T_1;X) \overset{\mathrm{i^\prime}}{\to} (T_2;X)$は外界に仕事をしない.

断熱操作
  • 【要請】$(T_1;X_1) \overset{\mathrm{a}}{\to} (T_2;X_2)$が可能なら,断熱準静操作$(T_1;X_1) \overset{\mathrm{aq}}{\to} (\textcolor{red}{T^\prime_2};X_2)$が可能($T_2=\textcolor{red}{T^\prime_2}$とは限らない.等温操作の場合は,等温準静操作でも終状態が全く同じになることに注意.).
  • 【要請】断熱準静操作$(T_1;X_1) \overset{\mathrm{aq}}{\to} (T_2;X_2)$が可能なら,逆向きの断熱準静操作$(T_2;X_2)\overset{\mathrm{aq}}{\to}(T_1;X_1)$が可能.
  • 【要請】任意の$T,X$と$T^\prime(>T)$に対して断熱操作$(T;X) \overset{\mathrm{a}}{\to} (T^\prime;X)$が存在し,$W_\mathrm{ad} \bigl((T;X)\to(T^\prime;X)\bigr) < 0$.
    • 【結果 (Planckの原理)】この操作は不可逆.
  • 【結果】$(T_1;X_1) \overset{\mathrm{a}}{\to} (T_2;X_2)$が可能なら,任意の$\textcolor{red}{T^\prime_2}$に対して$(T_1;X_1) \overset{\mathrm{a}}{\to} (\textcolor{red}{T^\prime_2};X_2)$か$(\textcolor{red}{T^\prime_2};X_2) \overset{\mathrm{a}}{\to}(T_1;X_1)$の少なくとも一方が可能.
  • 【要請】任意の$(T_1;X_1)$と$T_2$に対して,$(T_1;X_1) \overset{\mathrm{aq}}{\leftrightarrow} (T_2;X_2)$となる$X_2$が存在(式(5.12), 問題5.2).これがないと,任意の温度間でのカルノーサイクルがつくれない.

熱力学関数

理想気体