- 複素数の平方根で有名な1=−1となるパラドックスを紹介.
- 実数の平方根と異なり,符号を一意に決められないことが原因.
高校生や大学の複素解析を学んだとき,「平方根」で混乱したことはないでしょうか?一見正しそうな計算により,1=−1 が導かれる原因について解説します.
パラドックス?
複素数の平方根を用いた,こんな計算をご存知でしょうか?1=\sqrt{1}
=\sqrt{-1\cdot -1}
=\sqrt{-1}\sqrt{-1}
=-1
\tag{1}
% \label{eq:20160508_paradox}
\end{aligned}
・・・なんと,$1=-1$が導かれてしまいました.
種明かし
そもそも,「実数の平方根ではなぜ値が一意に決まるのか」を思い出してみましょう.非負実数の平方根の定義を思い出してみる
非負の実数$a$に対してはのでした.
しかし,改めて考えてみると,$x=-\sqrt{a}$も式(2)を満たしますね.平方根の値を一意に定めるため,我々が勝手ににルールを定めているわけです.
・・・さて,複素数の平方根はこういうルールは設けていたでしょうか?このあたりに,式(1)の矛盾を解決する糸口がありそうです.
複素数の平方根の定義
複素数 $\gamma$ の平方根はとして定義されます(先ほどの非負整数の平方根とは違って,他に条件はありません).
この平方根が非負整数の平方根$\sqrt{~~}$と同じ保証は無いので,複素数の平方根を${}^{\mathbb{C}}\!\!\!\!\sqrt{~~}$と書きましょう:$z={}^{\mathbb{C}}\!\!\!\!\sqrt{\gamma}$
さて,$z=x+iy$, $\gamma=\alpha+i\beta$ ($x,y,\alpha,\beta$は実数) とすれば$z^2=\gamma$は
(x+iy)^2=\alpha+i\beta
% \tag{3}
%\label{eq:20160508_complexsqrt}
\end{aligned}
この式の実部・虚部を比較し,$x^2$, $y^2$について解くと(非負整数の平方根$\sqrt{~~}$を用いて)
x^2&=\frac{1}{2}\left(\alpha+\sqrt{\alpha^2+\beta^2}\right)\\
% &\tag{4}\label{eq:20160508_xy}\\[0pt]
y^2&=\frac{1}{2}\left(-\alpha+\sqrt{\alpha^2+\beta^2}\right)
\end{aligned}
- $\beta=0$の場合
- $\alpha\geq0$の場合:$({}^{\mathbb{C}}\!\!\!\!\sqrt{\gamma}=)\,z=\pm\sqrt{\alpha}$
- $\alpha<0$の場合:$({}^{\mathbb{C}}\!\!\!\!\sqrt{\gamma}=)\,z=\pm i\sqrt{-\alpha}$
- $\beta\neq 0$の場合\begin{aligned}
({}^{\mathbb{C}}\!\!\!\!\sqrt{\gamma}=)\,z
=\pm\left(
\sqrt{\frac{\alpha+\sqrt{\alpha^2+\beta^2}}{2}}
+i\frac{\beta}{|\beta|}\sqrt{\frac{-\alpha+\sqrt{\alpha^2+\beta^2}}{2}}
\right)
\end{aligned}
以上からわかるように,これら全ての場合に対して複素数の平方根${}^{\mathbb{C}}\!\!\!\!\sqrt{~~}$では$\pm$の符号を除くことができないのです (多価性).
結論
以上より,式(1)は- 「非負実数の意味での平方根$\sqrt{~~}$」
- 「複素数の意味での平方根${}^{\mathbb{C}}\!\!\!\!\sqrt{~~}$」
ところがまずかったわけです.
つまり,全て「複素数の意味での平方根」を用いて計算すれば
\pm 1
={}^{\mathbb{C}}\!\!\!\!\sqrt{1}
={}^{\mathbb{C}}\!\!\!\!\sqrt{-1\cdot -1}
={}^{\mathbb{C}}\!\!\!\!\sqrt{-1}{}^{\mathbb{C}}\!\!\!\!\sqrt{-1}
=(\pm i)(\pm i)
\end{aligned}