ランダウの記号の使い方

POINT

  • ランダウの記号は,無限小や無限大を議論する際に現れる.

微小量の高次項を表す際,$o(\cdot)$や$O(\cdot)$といった記号が現れます(カリグラフィー$\mathcal{O}$が使われることもあります).例えば,微積分学の教科書の中には,証明の中でこの記号を積極的に使っているものがあります.また,統計力学では$O(N)$といった記号を頻繁に見かけることでしょう($N$は粒子数).

これらは"オーダー"と呼ばれる記号ですが,$o$と$O$では異なる意味を持ちます.また,同じ文脈で現れる記号に,漸近展開などにおいて使われる$\sim$があります.

無限小と無限大

$o(\cdot)$, $O(\cdot)$, $\sim$といった記号は,「ある点$a$において無限小・無限大となる関数」の挙動を比較する道具と言えます.ここで言う「挙動」とは,「どの程度の速さで$0$あるいは$\pm\infty$に近づくか」という性質を指します.

こうした「挙動」を調べるためには,比較したい関数$f,g$の比を取ってみれば良いはずです.そして,この比$f/g$の特徴を分類するのがLandauの記号なのです.


まずは,「無限小・無限大」といった言葉を定義しておきます:

【定義】無限小
関数$f$が$a$において無限小であるとは
\begin{align}
\lim_{x\to a}f(x)=0
\end{align}を満たすことである.

【定義】無限大
関数$f$が$a$において正の(負の)無限大であるとは
\begin{align}
\lim_{x\to a}f(x)=\pm\infty
\end{align}を満たすことである.

Landauの記号

$o(\cdot)$や$O(\cdot)$はLandauの記号と呼ばれます(注:「理論物理学教程」の著者であるLandauとは別人です).

1.$o(\cdot)$の定義と例

【定義】$o(\cdot)$
$o(\cdot)$は以下で定義されます:
\begin{align}
&\;\;f=o(g)\quad(x\rightarrow a)\\
\overset{\mathrm{def}}{\Leftrightarrow}
&\;\lim_{x\to a}\frac{f(x)}{g(x)}
=0
\end{align}

【例】
\begin{align}
x^2&=o(x)\quad(x\rightarrow0) \\
x&=o(1)\quad(x\rightarrow0)
\end{align}

2.$O(\cdot)$の定義と例

【定義】$O(\cdot)$
$O(\cdot)$は以下で定義されます:
\begin{align}
& \;\;f=O(g)\quad(x\rightarrow a)\\
\overset{\mathrm{def}}{\Leftrightarrow}&\;
{}^\exists M>0, {}^\exists V=\left\{x\,| \,0<|x-a|<\epsilon \right\} \\
&\qquad \,\mathrm{s.t.}\,
\left|\dfrac{f(x)}{g(x)}\right| < M
\quad \forall x\in V
\end{align}
つまり,「$a$を除く近傍で,有界となるものが存在する」ことを意味しています.

定義から,以下が成り立つことがわかります:
\begin{align}
1.\:&f\sim g\quad(x\rightarrow a) \\
&\Rightarrow
f=O(g)\quad(x\rightarrow a), \\
&\quad\:\:\: g=O(f)\quad(x\rightarrow a).\\
2.\:&f=o(g)\quad(x\rightarrow a) \\
&\Rightarrow
f=O(g)\quad(x\rightarrow a)
\end{align}

【例】
有界であれば良いので,$\sin$のような振動する関数でもOKです:
\begin{align}
\sin x=O(1)\quad(x\rightarrow \infty)
\end{align}

3.$\sim$の定義と例

【定義】$\sim$
$\sim$は以下で定義されます:
\begin{align}
&\;\;f\sim g\quad(x\rightarrow a)\\
\overset{\mathrm{def}}{\Leftrightarrow}&\;
\lim_{x\to a}\frac{f(x)}{g(x)}
=1
\end{align}

【例1】
$x\rightarrow 0$で$\sin x/x\rightarrow 1$ですから,
\begin{align}
\sin x\sim x\quad(x\rightarrow0).
\end{align}

【例2】
統計力学でよく現れるスターリングの公式は
\begin{align}
\Gamma(s+1)\sim\sqrt{2\pi} s^{s+1/2}e^{-s}\qquad(s\rightarrow\infty)
\end{align}
とあらわせます.

スターリングの公式については,次の記事も参考にして下さい:

漸近展開

【定義】漸近展開
$f$を$a$における無限小または無限大であるとする.条件

  1. $f=c_1 g_1+\cdots +c_n g_n +o(g_n)$$\quad (x\rightarrow a)$
  2. $k=1,...,n-1$に対し,$g_{k+1}=o(g_k)$$\quad (x\rightarrow a)$

を満たすとき,1. の式を「$f$の$\{g_k\}_{k=1}^n$による漸近展開」と呼ぶ(また,$c_1 g_1$を$f$の主要部と呼ぶ).

【注意】
漸近展開の定義から,
\begin{align}
f\sim c_1 g_1\quad(x\rightarrow a)
\end{align}が成立します.

漸近展開の特別な場合に,「漸近曲線」や「漸近線」があります(高校数学の内容を言い換えているだけです).

【定義】漸近曲線・漸近線
関数$f$が$x\rightarrow+\infty$において漸近展開
\begin{align}
f=\varphi+o(1)
\end{align}を持つとき,$\varphi$を$x\rightarrow+\infty$の近傍での漸近曲線と呼ぶ.特に,$\varphi$が1次式であるとき漸近線と言う.

【注】$x\rightarrow-\infty$の場合も同様に定義される.

例:$f(x)=\sqrt{x^2+x+1}$の$x\rightarrow+\infty$における漸近展開

計算方法も含め,詳しく解説します.

まず,
\begin{align}
f(x)
&=\left(x^2+x+1\right)^{1/2} \\
&=x\left(1+x^{-1}+x^{-2}\right)^{1/2}
\end{align}と変形できることに注意しましょう(Taylor展開の結果を知っている「$(1+\text{微小量})^{y}$の形」を作り出しています).


この形であれば,Taylor展開(或いは一般二項定理)が利用できます:

一般二項定理
$m\in\mathbb{C},n\in\mathbb{N},|z|<1$に対し,以下が成立する:
\begin{align}
(1+z)^n
&=\sum_{n=0}^\infty
\begin{pmatrix}
m\\
n
\end{pmatrix}
z^n
\end{align}但し,
\begin{align}
\begin{pmatrix}
m\\
n
\end{pmatrix}
&:=\dfrac{m(m-1)\cdots\left(m-(n-1)\right)}{n!} , \\
\begin{pmatrix}
m\\
0
\end{pmatrix}
&:=1 .
\end{align}


つまり,$g(x)=(1+x^{-1}+x^{-2})$, $h(x)=x^{-1}+x^{-2}$とするとき,十分大きな$x$に対し$\left|h(x)\right|<1$となるため,$g(x)$に対して一般二項定理が適用できます.これにより,$g$は$x^{-1}$のベキで展開できます.

今回は,$f(x)=x\cdot g(x)$を$x^{-1}$のオーダーまで漸近展開してみます.そのためには,$g$を$x^{-2}$まで展開する必要があります.


展開後の式は,Landauの記号を用いて
\begin{align}
g(x)=1+\frac{1}{2}h(x)-\frac{1}{8}h(x)^2+o\left(h(x)^2\right)& \\
(x\rightarrow+\infty)&
\end{align}と書くことができます(この式自体も漸近展開であることにも注意しましょう).

この式を整理すれば,
\begin{align}
g(x)=1+\frac{1}{2}x^{-1}+\frac{3}{8}x^{-2}+o\left(x^{-2}\right)& \\
(x\rightarrow+\infty)&
\end{align}となります.

以上より,
\begin{align}
f(x)=x+\frac{1}{2}+\frac{1}{8}\frac{1}{x}+o\left(\frac{1}{x}\right)& \\
(x\rightarrow +\infty)&
\end{align}と漸近展開できることがわかりました.

参考文献

微分積分学 ((サイエンスライブラリ―数学))

微分積分学 ((サイエンスライブラリ―数学))

解析入門 ?(基礎数学2)

解析入門 ?(基礎数学2)