テンソルの変換則とその導出

  • 基底の変換則から,高階のテンソルの変換則が導かれる.
  • 導出した変換則を一覧として整理した.



以前の記事で,

  • 「線形空間$V$の基底・双対基底の変換則」から,自然に「反変・共変ベクトルの変換則」が導かれること

を示しました.この議論を一般化すれば,「高階のテンソルの変換則」も全く同様に理解することができます
www.mynote-jp.com

一般のテンソルの定義

テンソル積とその性質

体$K$上の線形空間$V$, $W$を与えたとき,次の性質を持つ線形空間$V\otimes W$が存在します.
この$V\otimes W$を,$V$と$W$のテンソル積と呼びます.
(体について知らなければ,「実線形空間:$K=\mathbb{R}$」や「複素線形空間:$K=\mathbb{C}$」で考えて下さい)

  • $V\otimes W$の任意の元は,$v\in V$と$w \in W$を用いて「$v\otimes w$」と表される.
    • (つまり,「$(v,w)\mapsto v\otimes w$という写像」の像として表される)
  • (上の写像は)双線形性をもつ.つまり,以下が成立する:

    \begin{align}
    \begin{cases}
    &1.\quad (av_1+bv_2)\otimes w=a(v_1\otimes w)+b(v_2\otimes w)\qquad(a,b\in K,\;v_1,v_2\in V,\;w\in W)\\
    &2.\quad v\otimes (aw_1+bw_2)=a(v\otimes w_1)+b(v\otimes w_2)\qquad(a,b\in K,\;v\in V,\;w_1,w_2\in W)
    \end{cases}
    \end{align}
  • $x_1,...,x_n$を$V$の基底,$y_1,...,y_m$を$W$の基底とする.
    • このとき$\{x_i\otimes y_j\,|\, i=1,...n,\,j=1,...,m\,\}$は$V\otimes W$の基底となる.
    • 従って,$\mathrm{dim\,}\left(V\otimes W\right)=\mathrm{dim\,}V\cdot\mathrm{dim\,}W$

$p$階反変$q$階共変テンソルの定義

線形空間$V$と,その双対空間$V^*$のテンソル積からえられる線形空間をテンソル空間といいます.

また,以下で定義されるテンソル空間$T_q^{\;p}(V)$の元を,$(p,q)$型テンソルまたは$p$階反変$q$階共変テンソルと呼びます.
\begin{align}
T_q^{\;p}(V)=\overset{p}{\overbrace{V\otimes\cdots\otimes V}}\otimes \underset{q}{\underbrace{V^*\otimes\cdots\otimes V^*}}
\end{align}

$p$階反変$q$階共変テンソルの変換則

それでは,$V$の基底を
\begin{align}
e^\prime_i=\alpha^j_{\; i}e_j
\end{align}
と変換するとき,$p$階反変$q$階共変テンソルがどのような変換則に従うのか見てみましょう.

基底の変換則

$V$の基底を$e_1,...,e_n$,その双対基底を$f^1,...,f^n$で表すと,$T_q^{\;p}(V)$の基底は
\begin{align}
&t_{i_1,...,i_p}^{\;\;\;\;\;\;\;j_1,...,j_q}=e_{i_1}\otimes\cdots\otimes e_{i_p}\otimes f^{j_1}\otimes\cdots\otimes f^{j_q}\\
&(1\leq i_1,...,i_p,j_1,...,j_q\leq n)
\end{align}
で与えられます.


ここで,双対基底の変換則は,$\left(\alpha^i_{\; j}\right)$の逆行列$\left(\beta^i_{\; j}\right)$を用いて,
\begin{align}
f^{\prime i}=\beta^i_{\; j}f^j
\end{align}
と表されることを思い出しましょう.詳しくは以下の記事を参照して下さい:
www.mynote-jp.com


従って,基底$t_{i_1,...,i_p}^{\;\;\;\;\;\;\;j_1,...,j_q}$の変換則は以下で与えられることがわかります:

$p$階反変$q$階共変テンソルの「基底の変換則」
\begin{align} t_{ i_1,...,i_p}^{\prime\;\;\;\;\;\;j_1,...,j_q} =\alpha^{k_1}_{\; i_1}\cdots\alpha^{k_p}_{\; i_p} \beta^{j_1}_{\; l_1}\cdots\beta^{j_q}_{\; l_q} t_{k_1,...,k_p}^{\;\;\;\;\;\;\;l_1,...,l_q} \end{align}

成分の変換則

$T_q^{\;p}(V)$の任意の元は
\begin{align}
\xi_{j_1,...,j_q}^{\;\;\;\;\;\;\;i_1,...,i_p} t_{i_1,...,i_p}^{\;\;\;\;\;\;\;j_1,...,j_q}
\qquad\left(\xi_{j_1,...,j_q}^{\;\;\;\;\;\;\;i_1,...,i_p}\in K\right)
\end{align}
と表されます ($\displaystyle\sum_{i_1,...,i_p,j_1,...,j_q}$を省略する,Einsteinの規約を用いています).

従って,上で求めた基底の変換則から
\begin{align}
&\xi_{j_1,...,j_q}^{\;\;\;\;\;\;\;i_1,...,i_p} t_{i_1,...,i_p}^{\;\;\;\;\;\;\;j_1,...,j_q}\\
&=\beta^{k_1}_{\; i_1}\cdots\beta^{k_p}_{\; i_p} \alpha^{j_1}_{\; l_1}\cdots\alpha^{j_q}_{\; l_q} \xi_{j_1,...,j_q}^{\;\;\;\;\;\;\;i_1,...,i_p}
t_{k_1,...,k_p}^{\prime\;\;\;\;\;\;l_1,...,l_q}
\end{align}
となります.これにより,成分の変換則がわかります:

$p$階反変$q$階共変テンソルの「成分の変換則」
\begin{align} \xi_{j_1,...,j_q}^{\prime\;\;\;\;\;\;i_1,...,i_p} =\alpha^{l_1}_{\; j_1}\cdots\alpha^{l_q}_{\; j_q} \beta^{i_1}_{\; k_1}\cdots\beta^{i_p}_{\; k_p} \xi_{l_1,...,l_q}^{\;\;\;\;\;\;\;k_1,...,k_p} \end{align}

【まとめ】変換則一覧

上で得られた結果を,一覧表にしてみましょう.

但し,以下で記号を定めます:

  • $V$:体$K$上の$n$次元線形空間,$V^*$:$V$の双対空間.
  • $V$の基底:$e_1,...,e_n$,その双対基底:$f^1,...,f^n$.
  • $\left(\beta^i_{\; j}\right)$:$\left(\alpha^i_{\; j}\right)$の逆行列.

$V$の基底を
\begin{align}
e^\prime_i=\alpha^j_{\; i}e_j
\end{align}
と変換するときの変換則は下表でまとめられます:

対象 変換則
$V$の基底$$\{e_i\}_i$$ $$e^\prime_i=\alpha^j_{\; i}e_j$$
$\{e_i\}_i$の双対基底$$\{f^i\}_i$$ $$f^{\prime i}=\beta^i_{\; j}f^j$$
$p$階反変$q$階共変テンソルの基底$$\left\{t_{i_1,...,i_p}^{\;\;\;\;\;\;\;j_1,...,j_q}\right\}$$ \begin{align}&t_{ i_1,...,i_p}^{\prime\;\;\;\;\;\;j_1,...,j_q}\\&=\alpha^{k_1}_{\; i_1}\cdots\alpha^{k_p}_{\; i_p} \beta^{j_1}_{\; l_1}\cdots\beta^{j_q}_{\; l_q} t_{k_1,...,k_p}^{\;\;\;\;\;\;\;l_1,...,l_q}\end{align}
反変ベクトル$x=v^i e_i \in V$の成分$$v^i$$ $$v^{\prime i}=\beta^i_{\; j}v^j$$
共変ベクトル$\varphi=u_i f^i \in V^*$の成分$$u_i$$ $$u_i^\prime=\alpha^j_{\; i} u_j$$
$p$階反変$q$階共変テンソル$$z=\xi_{j_1,...,j_q}^{\;\;\;\;\;\;\;i_1,...,i_p} t_{i_1,...,i_p}^{\;\;\;\;\;\;\;j_1,...,j_q}\in T_q^{\;p}(V)$$の成分$\xi_{j_1,...,j_q}^{\;\;\;\;\;\;\;i_1,...,i_p} $ \begin{align}&\xi_{j_1,...,j_q}^{\prime\;\;\;\;\;\;i_1,...,i_p}\\&=\alpha^{l_1}_{\; j_1}\cdots\alpha^{l_q}_{\; j_q} \beta^{i_1}_{\; k_1}\cdots\beta^{i_p}_{\; k_p} \xi_{l_1,...,l_q}^{\;\;\;\;\;\;\;k_1,...,k_p}\end{align}


参考文献

  • 一般相対論入門
    以下は,「基底・双対基底の変換則から,テンソルの成分の変換則を導く」方式を取っている書籍です.
    一般相対論入門

    一般相対論入門

  • ジョルダン標準形・テンソル代数 (岩波基礎数学選書)
    テンソルや外積代数についてコンパクトにまとめられています.
    テンソルの詳しい導入や,定理の証明を知りたい場合は本書がおすすめです.
    ジョルダン標準形・テンソル代数 (岩波基礎数学選書)

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  • 線形代数の世界―抽象数学の入り口
    テンソルだけでなく,線形代数全般の内容を含む教科書です.

    テンソル積の部分では,「物理で使われる用語」にも触れています.例えば,

    • 余談74:応力テンソルが「1階共変1階反変のテンソル場」となる理由.
    • 余談77:物理では,テンソルの成分を「テンソル」と呼ぶことが多いこと.
    • 余談78:電場が極性ベクトル場,磁束密度が軸性ベクトル場となること.

    線形代数の世界―抽象数学の入り口 (大学数学の入門)

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