POINT
- 数学的に収束因子が正当化される例の紹介.
- 物理においては,実験との比較によって正当化される.
物理では,広義積分の計算において収束因子を掛けて収束性を良くし,最後に収束因子の影響を除く操作を行うことがあります.この操作が正当化されるのは,実験結果をうまく説明できるかによります.そもそも積分が計算できなければ,なんの予言もできないため,なんとかして意味のある値を出す操作が必要なのです.
それでは数学的には,どのような場合に正当化されるのか見てみましょう.
広義積分のアーベル和
定理
$[a,\infty)$上で区分的連続な関数$f$の広義積分$\displaystyle\int_a^\infty f(x)\,\mathrm{d}x$が存在するとき,
\begin{aligned}
\lim_{\epsilon\to+0}\int_a^\infty f(x)e^{-\epsilon x}\,\mathrm{d}x
=\int_a^\infty f(x)\,\mathrm{d}x
\end{aligned}
が成立する.\lim_{\epsilon\to+0}\int_a^\infty f(x)e^{-\epsilon x}\,\mathrm{d}x
=\int_a^\infty f(x)\,\mathrm{d}x
\end{aligned}
左辺を広義積分$\displaystyle\int_a^\infty f(x)\,\mathrm{d}x$のアーベル和という.
この定理より,「広義積分が存在する場合は」収束因子を用いることが「数学的に」正当化できます.
また,$e^{-\epsilon x}$を掛けていることで,アーベル和の方が,元の広義積分よりも収束しやすくなっていることに注意しましょう.
このため,広義積分が存在しなくてもアーベル和は存在する場合があります.
例
$\sin x$は一定振幅で周期的に振動するため,\begin{aligned}
\int_0^\infty \sin x\,\mathrm{d}x
\end{aligned}
は収束しません.\int_0^\infty \sin x\,\mathrm{d}x
\end{aligned}
しかし,収束因子を掛けたアーベル和は
\begin{aligned}
\lim_{\epsilon\to+0}\int_0^\infty \sin x \cdot e^{-\epsilon x}\,\mathrm{d}x
=\lim_{\epsilon\to+0}\frac{1}{1+\epsilon^2}
=1
\end{aligned}
と計算することができます.\lim_{\epsilon\to+0}\int_0^\infty \sin x \cdot e^{-\epsilon x}\,\mathrm{d}x
=\lim_{\epsilon\to+0}\frac{1}{1+\epsilon^2}
=1
\end{aligned}