完全反対称テンソルの縮約公式

完全反対称テンソルの縮約
完全反対称テンソルの縮約
POINTベクトル解析の計算でよく使う「完全反対称テンソルの縮約公式」を簡単に導出する.
ベクトル解析でよく使う公式に「完全反対称テンソルの縮約公式」があります.
※完全反対称テンソルは,レビ・チビタ記号,エディントンのイプシロンと呼ばれることもあります.

この記事では,縮約公式を簡単に導く方法を紹介します.この考え方を覚えておくと,毎回公式を調べずに済みます.

完全反対称テンソルの縮約公式は,例えば以下のように使います.

完全反対称テンソルの性質

$\epsilon_{ijk}$の性質は「完全反対称性」です.つまり,どの2つの添字を入れ替えてもマイナス符号が付きます:
完全反対称性
\begin{aligned}
\epsilon_{\textcolor{red}{\LARGE{i}} \textcolor{blue}{\LARGE{j}}k}
&=-\epsilon_{\textcolor{blue}{\LARGE{j}} \textcolor{red}{\LARGE{i}}k}, \\
\epsilon_{i\textcolor{red}{\LARGE{j}} \textcolor{blue}{\LARGE{k}}}
&=-\epsilon_{i\textcolor{blue}{\LARGE{k}} \textcolor{red}{\LARGE{j}}}, \\
\epsilon_{\textcolor{red}{\LARGE{i}}j \textcolor{blue}{\LARGE{k}}}
&=-\epsilon_{\textcolor{blue}{\LARGE{k}}j \textcolor{red}{\LARGE{i}}}.
\end{aligned}

この性質から,$\epsilon_{ijk}$の添字のうち,どれか2つが同じなら$0$になることがわかります.たとえば,$\epsilon_{iik}=-\epsilon_{iik}$(ここでは,$i$についての和を取らないとします)なので$2\epsilon_{iik}=0$となります.

まとめると,

\begin{aligned}
\epsilon_{\textcolor{red}{\LARGE{ii}}k}
=\epsilon_{k\textcolor{red}{\LARGE{ii}}}
=\epsilon_{\textcolor{red}{\LARGE{i}}k \textcolor{red}{\LARGE{i}}}
=0
\end{aligned}
(注意:$i$についての和は取らない)
と表すことができます.

では,これらの性質を用いて縮約公式を導いてみましょう.

縮約公式の導出

導出でやっていることはすごく簡単です.式変形についても詳しく解説します.

3次元の場合

2ステップで導出できます.


STEP
$~\neq 0$となる場合を列挙する$\Rightarrow$ざっくりと形を決める
 $\epsilon_{ijk}$は完全反対称なので,$\epsilon_{ijk}\epsilon^{ilm}\neq0$となるのは
\begin{aligned}
\begin{cases}
1.\, :& (j,k)=(l,m) \\
2.\, :& (j,k)=(m,l)
\end{cases}
\end{aligned}
の2通りの場合に限られます(*1).
 よって,定数$a,b$を用いて
\begin{aligned}
\epsilon_{ijk}\epsilon^{ilm}
=a\cdot\delta_{jl}\delta_{km}+b\cdot\delta_{jm}\delta_{kl}
\end{aligned}
と表すことができます.


STEP
定数を決める( "添字の置換"に対する反対称性を考慮する)
 左辺は$j,k$(或いは$l, m$)の置換に対し反対称であるので,右辺もそうでなければなりません.よって(あるいは,$j=k=l=m$の場合に上式は$0=a+b$となることから),
\begin{aligned}
\epsilon_{ijk}\epsilon^{ilm}=a(\delta_{jl}\delta_{km}-\delta_{jm}\delta_{kl})
\end{aligned}
となります.
 定数$a$は,次のいずれかの方法で求めることができます:
  1. $(j,k)=(l,m)=(2,3)$の場合を考えれば,$a=1$となる.
  2. すべての添字について和を取ると,$\epsilon_{ijk}\epsilon^{ijk}=3!$となることから,
    \begin{aligned}
    3!&=\epsilon_{ijk}\epsilon^{ijk} \\
    &=a(\delta_{jj}\delta_{kk}-\underset{=\delta_{jj}}{ \underline{\delta_{jk}\delta_{kj}} }) \\
    &=a(3\cdot 3 - 3).
    \end{aligned}
    したがって,$a=1$.

 以上より,

縮約公式
\begin{aligned}
\epsilon_{ijk}\epsilon^{ilm}=\delta_{jl}\delta_{km}-\delta_{jm}\delta_{kl}
\end{aligned}
が導かれました.//



2つの添字の縮約

2つの添字について縮約した場合:
\begin{aligned}
\epsilon_{\textcolor{red}{\large i}\textcolor{blue}{\large j}k}
\epsilon^{\textcolor{red}{\large i}\textcolor{blue}{\large j}m}
=?
\end{aligned}
を,上で導いた公式に頼らず,暗算で計算してみましょう (その方が早いはずです).



一応,計算方法を書いておきます.参考にしてください:
  • 1から導出する方法:
    定数$a$を用いて,$\epsilon_{ijk}\epsilon^{ijm}=a\delta_{km}$であることがわかる.ここで,次のどちらかの方法から$a=2$とわかる:
    1. $k=m=3$の場合を考えると$a=\epsilon_{ij3}\epsilon^{ij3}=\epsilon_{123}\epsilon^{123}+\epsilon_{213}\epsilon^{213}=2$.
    2. すべての添字について和を取ると,$3!=\epsilon_{ijk}\epsilon^{ijk}=a\delta_{kk}=3a$.
    したがって,
    \begin{aligned}
    \epsilon_{ijk}\epsilon^{ijm}=2\delta_{km}
    \end{aligned}
    となる.
  • 上で導いた公式を使う方法:
    上で導いた公式で$l=j$とすれば,
    \begin{aligned}
    \epsilon_{ijk}\epsilon^{ijm}
    &=\delta_{jj}\delta_{km}-\delta_{jm}\delta_{kj}\\
    &=3\delta_{km}-\delta_{km}\\
    &=2\delta_{km}
    \end{aligned}
    となる.

高次元の場合

考え方は,3次元の場合と同様です.例えば,4次元の場合は文献[1]を参照してください.

参考文献

[1]場の古典論 (ランダウ=リフシッツ理論物理学教程):$\text{\sect}6.$:4元ベクトルが参考になります.

*1:つまり,0とならないのは,「一方の完全反対象テンソルの和をとっていない添字」が,「他方の完全反対象テンソルの和をとっていない添字の置換」となっている場合に限られる.実際,そうでなければ和をとっていない添字の中に$i$と同じ添字が含まれるが,上で見たようにそのようなものは0になる.